非核化をめぐる米朝の協議が難航するなか、両国間の舌戦もエスカレートしている。トランプ大統領が、かつて金正恩・朝鮮労働党委員長(国務委員長)に向けた「ロケットマン」の蔑称を復活させたと思えば、北朝鮮は声明で「トランプ」と呼び捨てにした。
ただ、現時点では正恩氏が自分の言葉でトランプ氏を非難したわけではない。北朝鮮としては、この点で交渉の余地を残して譲歩を迫りたい考えのようだ。
「ロケットの発射が好きなんだろう?だから彼を『ロケットマン』と呼んでいるんだ」
トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)首脳会議出席のために訪れていたロンドンで2019年12月3日(現地時間)、正恩氏との関係について「非常に良い」とした上で、
「我々は、今までにかつてなく強力な軍隊を持っており、全世界で断トツで強力な国だ。それを使う必要がないことを望むが、使わなければならないなら、使う」
と述べ、正恩氏について
「ロケットの発射が好きなんだろう?だから彼を『ロケットマン』と呼んでいるんだ」
と発言。17年9月の国連総会で口にして北朝鮮を激怒させた「ロケットマン」という表現を復活させた。
北朝鮮側の反応は比較的素早かった。外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官が12月5日に出した談話では、
「トランプ大統領の武力使用発言と比喩呼称が即興的にひょいと飛び出た失言であったなら幸いであるが、意図的にわれわれを狙った計画された挑発なら問題は変わる」
「現在のような危機一髪の時期に、意図的にまたもや対決の雰囲気を増幅させる発言と表現を使うなら、本当に老いぼれのもうろくが再び始まったと診断すべきであろう。われらの国務委員長は、トランプ大統領に向かっていまだいかなる表現もしていない」
などとトランプ氏を非難。「大統領」という敬称を残す一方で、「老いぼれのもうろく」という強い言葉も登場した。12月7日に「西海衛星発射場では非常に重大な実験が行われた」と12月8日に朝鮮中央通信が報じると、トランプ氏は12月9日未明(日本時間)に、
「金正恩は賢明過ぎて、失うものが多過ぎる。仮に敵対的に行動すれば、本当に全てを失うことになる」
「北朝鮮には金正恩の指導下で大きな経済的潜在力があるが、約束通りに非核化をしなければならない」とツイッターに投稿。「NATO(北大西洋条約機構)、中国、ロシア、日本、そして全世界はこの問題で一致している」
とツイート。8月のツイートでは「金委員長(Chariman Kim)」と敬称つきだったが、呼び捨てになった。
金英哲氏の5時間後に李洙墉氏も...
北朝鮮側の反応もエスカレートした。12月9日にアジア太平洋平和委員会の金英哲(キム・ヨンチョル)委員長が出した声明では、
「トランプが非常にいらいらしていることを読み取れるところである。このように軽率でせせこましい老人であるので、またもや『もうろくした老いぼれ』と呼ばざるを得なくなる時がまた来るかも知れない」
などとトランプ氏を呼び捨てで罵倒。その約5時間後には、李洙墉(リ・スヨン)朝鮮労働党副委員長も声明を出し、やはりトランプ氏を非難した。
「最近、相次ぐトランプの発言と表現は一見、誰かに対する威嚇のように聞こえるが、心理的に彼が怖じ気づいたという明確な傍証である」
北朝鮮は米朝対話の期限を「今年の末」だと主張している。金(英)氏、李氏と、前出の崔氏の3者が強調しているのが、トランプ氏に罵倒をあびせているのは正恩氏ではない、という点だ。正恩氏が直接対米批判を始める前に米側に譲歩を迫ったともいえる。
「再び確認させてやるが、わが国務委員長は米大統領に向かっていまだいかなる刺激的表現もしていない。もちろん、自制しているとも思えるが、いままではない。しかし、そんな方式に引き続き進むなら、私はトランプに対するわが国務委員長の認識も変わると思う」(金英哲氏)
「遠からず、年末に下すことになるわれわれの最終判断と決心は国務委員長がすることになり、国務委員長はいまだいかなる立場も明らかにしていない状態にある。また、誰かのように相手に向かって揶揄(やゆ)的で刺激的な表現も使っていない。国務委員長の機嫌をますます損ねかねないトランプの出まかせな言葉は、中断されるべきである」(李氏)
一方、米国のポンペオ国務長官は12月10日(現地時間)に開いた記者会見で、
「金委員長は自ら非核化を約束し、長距離ミサイル実験や核実験をしないと言った。これらの約束について、北朝鮮が引き続き守ることを望んでいる」
と発言。「委員長」という敬称こそついたものの、主張は平行線をたどっている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)