化粧品大手の資生堂は栃木県大田原市に化粧水や美容液などのスキンケア商品を製造する新工場を建設し、2019年12月末までに本格稼働する。同社の国内工場の新設は実に36年ぶり。
アジアでの人件費の上昇や「メードインジャパン」人気の高まりが背景にあり、同業大手のコーセーも2021年度に山梨県南アルプス市に国内工場としては42年ぶりに新工場を建設する計画だ。生産拠点を国内に移す「国内回帰」の動きは、ライオンや日清食品でも動き出しており、今後も広がる可能性が高い。
インバウンド需要が後押し
資生堂が大田原市に建設した「那須工場」は、敷地面積約11万平方メートルに及ぶ。従業員は約350人態勢でスタートし、2022年には1000人規模になる予定で、地元は雇用の拡大を歓迎している。今後も2020年度後半には大阪府茨木市、2022年度前半には福岡県久留米市でも新たな生産拠点を稼働させる予定だ。
コーセーが計画している「南アルプス工場(仮称)」もスキンケアやヘアケア商品を生産する予定だ。
資生堂やコーセーが国内回帰に動き出している大きな要因の一つは、2014~2015年ごろから急速に高まってきたインバウンド需要だ。「特に中国の消費者は『日本製』を信頼しているほか、所得水準も上がってきており、値段が高くても安心して使える日本製であることが購入の決め手になっている」(化粧品業界関係者)という。さらに、日本企業がこれまで生産拠点としてきた中国などアジア諸国では経済成長とともに人件費が上昇し製造コストも上がっている。海外で製造するうまみがなくなっていることも大きい。
こうした流れは他業種のメーカーにも広がっており、日清食品は2019年春、滋賀県栗東市で22年ぶりに国内新工場を稼働した。日産400万食の生産能力を持ち、最新鋭の品質管理システムも備えている。また、ユニ・チャームも2019年、福岡県苅田町に26年ぶりの新工場を稼働。産業用ロボットなどによる省力化を徹底した。ライオンも2021年に香川県坂出市で52年ぶりとなる国内新工場を動かす予定だ。
海外との製造コストも差が縮まり...
いずれも海外と国内との製造コストの差がそれほど大きくなくなっているほか、「AI(人工知能)の活用などで、より効率的な生産が可能になるため」(メーカー関係者)と言われる。
もちろん、為替動向は気になるが、当面、円高が急進する気配がないことも追い風だ。国内での雇用を増やすことにつながり、特に大都市との格差が広がる地方では大きな地域活性化が期待される。
ただ、国内回帰は「日本製は安心・安全だ」という海外からの信頼で成り立っている部分が大きく、各企業は品質管理などを徹底し、消費者を裏切らない経営をより求められることになる。