「共通テスト、文科省がベネッセに抗議へ 『中立性に疑念』」、「共通テストの業務受注を掲げ営業 ベネッセが高校関係者に」――大学入学共通テストに導入される記述式問題をめぐる国会審議を受け、新聞ウェブ版記事にはこんな見出しが躍った。
一方ツイッターには、制度設計をして導入を進める当事者である文部科学省の今回の対応ぶりに、「一概にベネッセに問題を押し付ける態度は如何か」などと皮肉る反応も出ている。
萩生田氏「厳重に抗議し是正を促していきたい」
2019年11月20日の衆院文部科学委員会で、大学入学共通テストに導入される記述式問題の採点業務などに関して、城井崇議員(国民民主党)が質問に立ち、懸念を示した。
模擬試験や通信教育などを行う大手ベネッセコーポレーションは2017年、首都圏の高校関係者向け会合で、共通テストに向けた試行調査で採点基準の設定などの助言業務を受託した旨に触れた資料を配った――城井議員はこう指摘し、こうした資料への記載は「受託の事実を利用して中立性を損ない、(自社の利益を図る)利益相反だ」と批判した。
萩生田光一文科相は、配布の事実が確認できたとして、
「採点業務の中立性、信頼性に疑念を招くもので、厳重に抗議し是正を促していきたい」
と答弁した。
こうしたやりとりを受け、各メディア(ウェブ版)は20日から21日にかけ、
「共通テスト、文科省がベネッセに抗議へ 『中立性に疑念』」(朝日新聞)
「ベネッセ、採点業務受託をPR 文科相『信頼性に疑念』」(日経新聞)
「共通テストの業務受注を掲げ営業 ベネッセが高校関係者に」(東京新聞)
などと報じた。
もっとも、模擬試験や入試対策講座などを行う業者が(試行調査も含む)大学入学共通テストの記述式問題の採点関連業務に関わることに対しては従来から、「利益相反の問題がある。同じ会社でいいのか、と議論があった。分離することになっているが、徹底できないと考えている」(城井議員)との懸念が出ていた。
また、城井議員は2017年の話だけでなく、先に質問に立った牧義夫議員(国民民主党)も指摘した、現状の「兼務」問題にも触れた。20年度(21年1月)に始まる大学入学共通テストの記述式問題(国語と数学)で採点を請け負っているベネッセの関連会社「学力評価研究機構」の社長が、ベネッセの商品企画開発本部長を兼務していることも問題視した。
「一概にベネッセに問題を押し付ける態度は如何か」
こうした従来からの懸念がくすぶる中で今回、文科省側が民間業者のベネッセに「中立性に疑念を招く」と指摘し、抗議する姿勢を示したことに対してツイッターでは、
「この掌返しっぷり、凄いな」
「なに今ごろアリバイ工作してんだよ」
「一概にベネッセに問題を押し付ける態度は如何か」
と、文科省を揶揄するような意見も挙がっていた。他にも、
「営業目的でやってしまう可能性は予測できたでしょう。民間ですから」
「そういう事になるからダメなんだよ民間儲け主義企業を公共に使うのは」
と、「驚きはない」といった趣旨の指摘も出ていた。
共通テストの記述式問題を巡っては、採点者によってばらつきが出て公平性に欠けることになるなどとして、立憲民主党や国民民主党など野党4党は19年11月14日、導入を中止する法案を国会に提出している。
16年当時の契約には「条項」なかった
J-CASTニュースが11月21日、ベネッセホールディングス(HD)に見解を求めたところ、広報部から概略、下記のような回答があった。
20日の衆院文科委で話が出た17年の「記載資料配布」は事実だが、「(略)入試改革の検討が行われているという事実を率直にお伝えすることが目的であり、当社が契約を受託した事実を持って取引を誘引するなどの意図は一切ございませんでした」としている。
また、17年の話に出てくる業務をベネッセコーポレーションが受託したのは16年であり、ベネッセHDの子会社である「学力評価研究機構」が19年9月に受託した、共通テストの記述式の採点業務とは、全く異なる契約だとも説明。16年の業務委託契約では、「当該業務を受託する事実を利用して取引を誘引してはならない旨の条項」はなかった、ともしている。今回、文科省からは11月21日、16年当時の契約に上記の条項はなかったことを踏まえつつ、「現状を鑑み、誤解を受ける可能性があることから今後同じことが起きないよう注意をお願いします」という趣旨の注意を口頭で受けたという。
「学力評価研究機構」社長とベネッセ本部長との兼務問題については、
「(略)他の教育事業系グループ会社から独立して事業を遂行する体制となるため、(編注:機構の社長)以下、役職者は12月1日までに兼務を解消する予定でした。またこのことはすでに大学入試センターとも協議済みです」
と回答した。