2019年度のMLBは、ナショナルズがワールドシリーズを制覇して幕を閉じた。エンゼルス大谷翔平(25)、ヤンキース田中将大(31)、カブス・ダルビッシュ有(33)らをはじめとし、今シーズンも日本人MLBプレイヤーが大いに活躍した。日本のプロ野球ファンがMLBの試合を観戦する機会が増え、そこで日米の野球文化の違いを感じるファンもいるだろう。J-CASTニュース編集部は、MLBの元球団職員に日米の野球文化の違いについて聞いた。
記者がかねてから気になっていたのは、MLBの投手が死球を与えた際に「なぜ謝罪の意を示さないのか」だ。日本では死球を与えた場合、投手が帽子を取るか、もしくは帽子のつばに手をやるなどして、打者に対して謝罪の意を表する光景をよく目にする。プロ選手のなかにはこれに当てはまらない選手もいるが、アマチュア野球では死球の際、投手が打者に謝罪するのが当たり前の行為となっている。
MLBオープン戦では菊池の脱帽が話題に
今年3月のMLBオープン戦で、マリナーズ菊池雄星(28)がロイヤルズのブレット・フィリップス外野手の頭部に死球を与え、脱帽したことが話題になった。菊池自身は、MLBの流儀を聞いたことがあったというが、自身の流儀として帽子を取って謝罪の気持ちを表したという。日本人選手にとって当たり前の行為が、なぜMLBでは奇異と映るのか。前出の元球団職員は次のように説明した。
「これは単純なことで、故意に当てたものではないので謝罪しないのです。メジャーでは、デッドボールを与えた投手が謝るということは、故意に当てたものと受け取られます。当然、投手は意図的にぶつけたわけではないので、謝る必要はありません。脱帽に関していえば、そもそもメジャーでは帽子を取って謝るという習慣はありませんので、メジャー経験者が来日して初めてその意味を理解するというケースもあります」
死球では謝らないMLB投手が、時に「謝罪の意」を示すことがあるという。それは、投球ミスによる失投で本塁打など長打を許した場合にみられるという。マウンド上で捕手に対して「打たれたのはおまえのミスではなく、俺の責任だ」という意味を込めて、握拳で胸をポンポンとたたく。このような行為は日本の投手にはみられないものだ。
投手の松ヤニ使用は「暗黙の了解」?
これの他にもMLBの独自の流儀や多くの「暗黙のルール」が存在する。大量リードの終盤でのバント、盗塁などは許されず、このような場面で盗塁を決めても記録員が認めない傾向にあるという。前出の元職員は「終盤を迎えて大差がついた試合に時間と労力を費やすのは無駄という考えがあります。加えてメジャーでは個人プレーが許されませんので、大差のついた場面で個人成績を上げるためのプレーは軽蔑されます」と話した。
また、松ヤニについては「暗黙の了解」があるという。今年5月8日(日本時間9日)のヤンキース戦に先発した菊池に松ヤニの使用疑惑が持ち上がった。米NBCスポーツ電子版が報じたもので、菊池の帽子のつばに松ヤニらしき茶色い汚れのようなものが付着していた。だが、ヤンキースの首脳陣がこの事実に気付きながらも問題視することはなく、騒動に発展することはなかった。
「メジャーでは松ヤニは禁止されていますが、指に付ける投手は多いです。ベンチ裏で指先に松ヤニを少量、こすりつけます。菊池の行為が話題になったのは、帽子のつばにあからさまに松ヤニとみられるものが付着していたせいです。やるなら人目のつかないところでやれ。これがメジャー関係者の大方の意見だと思います。日本との文化の違いでしょうが、これがメジャー流なのです」(元球団職員)
(J-CASTニュース編集部 木村直樹)