日米をまたいだ事務機器メーカーの大型再編計画は、こじれた末に関係をリセットする結末となった。
富士フイルムホールディングス(HD)は2019年11月5日、米ゼロックスを買収する計画を断念すると発表。富士フイルムHDが75%、米ゼロックスが25%を出資する合弁会社の富士ゼロックスについては、米ゼロックスの持ち分のすべてを富士フイルムHDが約23億ドル(約2500億円)で買い取った。
2018年1月に双方の経営陣が米ゼロックスと富士ゼロックスの経営統合に合意したと発表したものの、米ゼロックス株主の猛反対を受けて頓挫。1962年から続いた合弁関係を解消するに至った。
「一貫した世界戦略」を実現するはずが
かつて主力だった写真用フィルムがデジタルカメラの急速な普及で衰退するという存続の危機を経験した富士フイルムHDにとって、事業の多角化は必然だ。薬品や化粧品などにウイングを広げているが、コピー機などを扱う富士ゼロックスは利益の半分近くを稼ぐ大黒柱だ。ただ今後を考えると、ペーパーレスの潮流が世界で進んでおり、合理化によってコストを削減して生き残りを図っていく必要がある。そこで富士フイルムHDと米ゼロックスの経営陣が合意した解決策が、米ゼロックスと富士ゼロックスの経営統合だ。
統合会社の事務機器事業の売上高は合計で約2兆1000億円となり、米HPを抜いて世界首位になる予定だった。計画を発表した2018年1月の記者会見で、富士フイルムHDの古森重隆会長は「一貫した世界戦略の展開が可能になる」と統合の意義を誇らしげに語っていた。
しかし、その再編スキームが裏目に出た。富士フイルムHDが米ゼロックスを約61億ドルで買収し、米ゼロックスと富士ゼロックスを経営統合させるものだったが、富士ゼロックスの企業価値を活用することで、富士フイルムHDの実際の資金拠出はゼロになるという複雑な手法だった。こうしたスキームに対して、米ゼロックスの株主が「ゼロックスを著しく低く評価している」などと反発。株主が米国の裁判所に請求した買収の差し止めが認められ、さらに米ゼロックスの経営陣が交代したことで、新経営陣が富士フイルムHDとの合意の破棄を決めたのだ。
「ゼロックス」の名前はどうなるか
その後の双方による協議の結果が、富士ゼロックスを巡る合弁の解消という今回の決定だ。製品供給先について、従来は富士ゼロックスがアジア太平洋地域、米ゼロックスが欧米と、すみ分けていたが、合弁解消によって、富士ゼロックスは世界中で米ゼロックス以外にもOEM(相手先ブランドによる生産)供給ができるようになり、そこで成長を狙う。合弁解消を発表した記者会見で古森氏は、「経営の自由度は拡大する」と強気な姿勢を示した。
ただ、コピー機の代名詞にもなった「ゼロックス」ブランドを富士ゼロックスが使用できる権利は2021年までで、その後がどうなるか不透明だ。また、逆に成長するアジア市場に米ゼロックスが進出して、富士ゼロックスと競合する可能性もあり、富士フイルムHDにとって合弁解消は「両刃の剣」になりかねない。
一方の米ゼロックスは合弁解消発表に前後して、米HPに対して買収を提案した。買収額について、ロイター通信は約330億ドル(約3兆6000億円)と伝えている。今回の合弁解消が、世界の事務機器メーカーの大型再編の引き金になるか。