東アジアの国際関係へ影響も... サムスンの中国事業に、私が注目する理由

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   韓国サムスン電子の中国での動きが、ここに来て目まぐるしくなっている。

   2019年10月初めには、中国で最後まで残ったスマートフォン工場を閉鎖し、来年からはODM(相手先ブランドによる設計・生産)方式で、中国の製造業者に生産を委託するという。また、陝西省西安市の大規模な半導体工場で、スマホなどに組み入れられる最先端NAND型フラッシュメモリー生産設備を増強する計画も発表された。中国では11月1日から次世代通信規格「5G」商用化が始まった。サムスンは5Gの大波に着実に乗ろうとしている。

  • 「5G対応」が強調された新製品が並んだ「上海国際輸入博」のサムスンのブース
    「5G対応」が強調された新製品が並んだ「上海国際輸入博」のサムスンのブース
  • 「5G対応」が強調された新製品が並んだ「上海国際輸入博」のサムスンのブース

中国メーカーとアップルに押されて「敗退」

   11月5日、上海で始まった国家レベルの「第2回国際輸入博覧会」のサムスンブースでは、5G版「ギャラクシーノート10」「ノート10+」や、中国では11月発売の折り畳み式スマホ「ギャラクシー・フォールド」が来場者の目を引いた。実際、中国の5G対応のスマホ市場シェアでは、10月、サムスンが20%に達する勢いだった。ファーウェイ、アップルというライバルが中国では5Gモデルを未発売という要因が大きいが、世界最大のスマホ市場・中国で、5G時代突入を機に再び存在感を示す意気込みをはっきり見せつけた形だ。

   10月2日、中国で最後まで維持してきた広東省恵州のスマホ工場をサムスンが閉鎖した際、中国メディアは「敗退」と報じた。2013年までは中国内でのスマホ出荷シェアトップを走っていたサムスンも、最近は1%を下回る水準に低迷。ファーウェイ、シャオミ、オッポなど中国国内メーカーと比べればコストパフォーマンスで劣り、一方で、アップルの高級機との競争にも苦戦。両者の挟み撃ちにあう形でユーザーを失っていった結果の「敗退」だった。

   もっとも、中国での競争では一敗地に塗れたものの、世界シェアでは依然としてトップ。米国の市場分析会社によると、この7~9月期も21.3%を保つ。しかも単なるアセンブリー(組み立て)メーカーではなく、世界シェア8割の有機ELディスプレーをはじめ、スマホ核心技術も擁するのがサムスンだ。中国メーカーにしても、半導体から液晶パネルまで、高価な部品の多くを同社に頼っている。

   サムスンは今後、日本メーカーと同様に、中国メーカーへの部材を供給しながら、コストカットが見込まれるODM生産で、中国での復権を目指す戦略だ。中国でのODM生産は年間6000万台の規模と伝えられている。

「次の成長戦略見いだせない」厳しい見方もあるが...

   同社はこれまで、半導体、電池、積層セラミックコンデンサー(MLCC)を中心に、累計で日本円にして2兆円を突破する規模の巨大投資を中国で進めてきた。その象徴といえるのが、西北部・陝西省西安市にある西安半導体工場だ。12年9月に1期工事を開始、18年3月には2期着工。2期の総投資額だけで140億ドル(約1兆5400億円)を超える規模だ。そこに新たに、スマホやカメラ、データセンターの機能を左右するNAND型フラッシュメモリーの設備投資追加が発表されたわけだ。新ラインは来年春には稼働し、5Gに対応した新製品をファーウェイなどにも供給するという。

   ちなみに、李国強首相が10月14日、この新工場を視察して、「世界の先端企業による中国投資拡大歓迎」「知的財産権の徹底的保護」「中国内の内外企業の同等待遇」をメッセージとして発した。サムスンの西安工場は外国企業の対中投資規模としては最大級。米中摩擦が続く中、外資の中国離れを阻止したい中国政府としても、格好の広告塔といえる存在である。

   これから5G、AI、モノのインターネット(IoT)時代の本格化を控え、半導体需要の拡大は見込まれる。だが、「サムスンにとって半導体は一度終わったコンテンツではないのか」という疑問を口にする人や、「次の成長戦略が見いだせない」という厳しい見方はある。確かに、日本に追いつき追い越した半導体事業で隆盛を極め、その後にスマホで大いに稼いだ時代がサムスン電子の最盛期だったかもしれないという気持ちは私にもある。むしろ、だからこそ私は、サムスンの今後の中国展開が順調に進むかどうかに注目している。

   同社は昨年、単体売上高の32.1%を中国で達成し、国別ではアメリカを上回る世界一となった。韓国経済を支える存在のサムスンが、依存度最大となった中国でどんなパフォーマンスを上げるかは、今後の中韓、そして日本を含めた東アジアの国際関係に影響を及ぼすことは必至だろう。政治や外交の安定は、それぞれの国の経済状況が順調であって初めて実現するものだから。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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