バイク界熱視線、大会出場の「高校生チーム」に騒動 部活か?個人か?活動めぐり学校と「溝」が...

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   高校生として史上初となる、富士スピードウェイのバイクレース「カブカップ日本GP」出場――静岡県立伊豆総合高校の原動機研究部にとって、それは誇れる勲章になるはずだった。バイク関係者はその活動に、熱視線を注ぐ。だが、その部と学校の間に「溝」が生じている。

   ある部員の保護者が言う。「廃部をほのめかされたのです。カブカップで勝手に学校名を使ったからと。部員たちは大会出場を事前に顧問に説明していたのに、です」。一方の学校側は「『個人で出場する』と聞いていたのに校名が出ていたので、どういうことなのかとは聞きました。でも廃部なんてしませんよ」と否定する。原動機研究部と学校の間で何が起きているのか。

  • サーキット走行する原動機研究部
    サーキット走行する原動機研究部
  • バイクは自分たちでメンテナンスしている
    バイクは自分たちでメンテナンスしている
  • ライディングウェアを着用する部員
    ライディングウェアを着用する部員
  • 高校生として史上初めて「カブカップ」出場を果たした
    高校生として史上初めて「カブカップ」出場を果たした
  • サーキット走行する原動機研究部
  • バイクは自分たちでメンテナンスしている
  • ライディングウェアを着用する部員
  • 高校生として史上初めて「カブカップ」出場を果たした

大会史上初の高校生出場、11位と健闘するが...

   「カブカップ」は富士スピードウェイ(以下FSW。静岡県駿東郡小山町)で毎年開催される3時間耐久レースだ。ホンダのスーパーカブに代表されるビジネスバイクのみ出走でき、性能によって8クラスに分かれる。

   FSWといえばF1世界選手権が開催されたこともあるモータースポーツの聖地。過去10年、カブカップはFSW最小のコースで開いてきたが、2019年8月10日の同大会はFSW最大にして国際大会仕様のレーシングコースで開催する運びとなった。

   その出場全46チームの1つに名を連ねたのが、「伊豆総合高校 原動機研究部」である。高校生が出場するのは大会初のことだった。完走を果たし、クラス内19チーム中11位と健闘した。

   ところが大会後、学校と部の間でトラブルが発生する。原動機研究部有志の保護者代表・福岡寛人さんが10月28日、J-CASTニュースの取材に明かした経緯はこうだった。

   レース前日の8月9日、地元紙が「高校生初のカブカップ挑戦」の事実を報じると、瞬く間に話題を呼んだ。すぐに記事の存在を知った学校は同日、部員を呼び出した。そこで部員が言われたというのが「出場するな。勝手なことをするな。このまま活動したら廃部だぞ」。大会出場はしたものの、原動機研究部の活動は大幅に制限されたという。

「カブカップ出場前にできていた活動が、今はできていません。たとえば、部室として使わせてもらっている学校の倉庫を開けてくれませんし、校内に車体を持ち込むこともできなくなりました。

高校はバイクの『3ない運動』(免許を取らせない、車両を持たせない、運転させない)を推奨していて、原則として生徒は免許を取ったりバイクに乗ったりできません。部員も私たちもそれは知っていましたから、カブカップの件は学校に説明し、承諾を得たうえで出場しました」(福岡さん)

「あの子たちを見ていたら応援せずにはいられない」

   そもそも原動機研究部は、燃費性能を競う「エコマイレッジチャレンジ」(主催・ホンダ)や「静岡県高校生エコラン大会」(主催・県工業高等学校長会)といった大会への出場が活動の大きな部分を占めている。使用する車両は自分たちで製作し、大会規定のエンジンを積み、改良と調整を重ねる。エンジンや車両そのものの仕組みも学んでいく。

   約2年前、たまたま学校を訪れた福岡さんのバイクに、原動機研究部は目を引かれた。中古車販売業を手がける福岡さんは、知人からボロボロのスクーターを譲り受け、学校側に報告したうえで部に提供。本物の市販バイクに部員は興味津々となる。まともに稼働しなかったスクーターを分解し、メンテナンスし、組み立てる作業を夢中で繰り返すうち、ついにエンジンがかかった。

   エンジンがかかるなら動かしてみたい。しかし学校の決まりでは原則、免許取得ができない。そこで考えたのが、免許なしで走れるFSWの練習用カートコースだ。未成年も保護者の同意のもとで使える。原動機研究部は顧問に説明し、福岡さんら保護者同伴のもとで、18年末ごろから週末を利用してカートコースでの練習をはじめた。

   カートコースを使うにも費用がかかる。部員は学校の許諾を得て、農家に声をかけた。農機具のメンテナンスや畑仕事を手伝い、小遣いを稼いで、コース代やガソリン代などに充てた。

   しかし、高校生の不慣れな運転を、周りは「遅い」と邪魔者扱い。悩んだ福岡さんは、知人に運転レッスンをしてもらえないかと相談した。イタリアのオートバイ「ドゥカティ」乗りが集まる愛好家団体「ドゥカティ・オーナーズクラブ・ニッポン」(略称・ドカポン)代表の岡丈樹さんだ。福岡さん自身も、約2000人が所属するドカポンメンバーの1人。

   岡さんが取材に明かす。

「相談を受け、基礎から教えようかと支援を始めました。はじめは私たちも、とりあえず速く走れるようになれればいいのだろうくらいに思っていましたが、あの子たちを見ていたら応援せずにはいられないというか、教えに行くと物凄くひたむきに、真剣に取り組んでくれます。バイクを愛する気持ちが伝わってきます。

自分たちが大人になって失っていた情熱のようなものを、思い出させてくれています。教えながら私たちが学ぶものも多いです」

   岡さんはヘルメット、つなぎ、ブーツといったライディングギア、さらにはバイク本体も、ドカポンメンバーから寄付を募り提供した。ライディング講師には国際Aライセンスを持つライダーも呼んでいる。技術だけでなく、運転のための知識も座学で教えているという。

顧問「『個人で出場する』と聞いていました」

   部員らは4月、FSWがカブカップを開催していることを知り、出場をめざす。運転免許を取得していることが条件だったが、先のとおり学校との関係で免許取得は難しい。だがFSWは、毎週末カートコースを走る部の存在を知っていた。そして部員が安全に走行できるレベルの運転技術と知識を持っていることを確認し、特例的に出場を認めた。FSWの担当者が取材に話す。

「毎週練習しているのを見ていたので、大丈夫だという判断をしました。参加にあたって安全に走るために、走行練習をしっかりやってほしいことはお願いしました。

あとは本人たちの意気込みですね。熱烈なやる気がありました。あの若さでバイクが好きな子たち、最近あまり見なくなりましたから、彼らは本当に貴重な存在ですよ。モータースポーツの未来を支える世代です」

   部員が顧問にこうした経緯を説明し、カブカップに出場したいと申し出ると、保護者管理のもと出場が認められたという。にもかかわらず大会前日、地元紙報道を見た学校側が先のとおり「廃部」をほのめかしたというのだが、伊豆総合高校原動機研究部の顧問は取材に「廃部にするなんて言っていませんよ」と否定する。

「生徒からは『個人で出場する』と聞いていましたので、『ケガのないように頑張ってね』と伝えていました。ところが、学校名と部活名が(報道で)出ていたので『聞いていた話と違うけど、どういうことなの?』と聞いただけです。

出場メンバーには3年生もいて、卒業後は就職する生徒もいます。社会に出てから、承諾を得ず勝手に会社名を使ってしまうと責任問題になるということ、自分たちのやっていることが応援されるよう話を通してほしいということを伝えました。

しかし会社に置き換えてもピンと来ていなかったので、『部活で言ったら万が一そういった(廃部の)判断を下す人もいるかもしれないから、覚えておいて。ただ、今回はみんなに責任がないことも分かってる』という話をしました。廃部という言葉を使って分かりやすく話したことはあるかもしれませんが、本当に『廃部になる』とは一切言っていません。話が独り歩きしてしまっています。

部活はできることとできないことがあり、それは組織として決めていることです。自由になんでもできる時間もお金もありません。今回のカブカップ出場は、免許を取ることなく、個人活動として保護者の責任で行うと聞いていました。確かに外部のレースは部活の中ではできないことなので、個人で頑張ってもらう分には何も問題ありません」(顧問)

   だが、こうした説明に福岡さんは反論する。

「普通に部員が集まって、顧問の先生に『カブカップに出場したいです』と説明しに行って承諾を得たんですよ。部活としてとか、個人としてなんてわざわざ言いません。子どもたちは部として出る前提で話しています。実際にカブカップ前まで、学校内にバイクを持ち込んで分解・組立をしていましたし、レースに向けて頑張ろうと動いていたのに、レースだけ個人活動だなんて説明しないでしょう」(福岡さん)

ネット上で起きていた「異変」

   顧問は、「部室として使っている倉庫を開けてくれない」という指摘についても「鍵は貸し出せる」という。

「必要があれば倉庫の鍵は貸し出せます。好き勝手に使われるのも良くないので、何に使うのかを確認したうえで貸し出しています。話の筋が通っていれば、止める理由はありません。

ただ、片付けができていないといった時に、一時的に倉庫の使用を止めて、もう一度よく考えてと伝えることはありました。それは安全に備品を使うため必要なことです」(顧問)

   カブカップ後の活動制限について、顧問は「ネット上でも情報が錯綜し、生徒も保護者も混乱していました」と説明する。

   ネット上では8月19日、部員の保護者という匿名ユーザー(福岡さんではない)が「部活動を廃部にする と言われてしまいました」と複数のQ&Aサイトで相談していた。また8月16日には、原動機研究部のフェイスブックで「部活やりたいです」と活動が制限されていることを思わせる投稿がなされた(現在アカウント名は変更。理由は後述)。こうした書き込みはツイッターなどでも拡散され、何が起きているのかと心配する声があがっていた。

「これまでのように活動していくと、また同じような混乱が生じかねません。カブカップで学校名が意図せず使われたことなどについて総括し、保護者に説明してから活動を再開しようというのが、学校の方針でした。部活動と個人活動の区別が上手くできていませんでした。そこを整理し、すでに保護者への説明を終えました。活動は徐々に再開しています」

「部活動」と「個人活動」の枠組みが説明される

   福岡さんによると、学校は10月16日、原動機研究部の保護者説明会を開き、「部活動」と「個人活動」それぞれの枠組みを文書で説明。それぞれの活動内容を一部抜粋する。

●部活動(学校および顧問の責任のもとで行う活動)
「自作燃料電池車の製作」
「静岡県高校生エコラン大会への参加」
「ガソリンエンジンの分解・組立」

●個人活動(保護者の責任のもとで行う活動)
「市販のバイクや自動車などをベースとして、改良された車両でのレース活動への参加」
「学校が窓口とならない企業見学および外部講師による講習会」
「部活動として計画されていないすべての活動」

   それぞれ留意事項があり、個人活動の方には「学校内に資材や車体を持ち込んで作業をしない」「活動は個人団体の名前で行う。その際、個人のHPやSNSなどには、学校名や部活名を掲載しない」などがある。ただ福岡さんは、学校名・部活名の後ろに「有志」をつけた「伊豆総合高校 原動機研究部有志」の名前であれば、個人活動でも使えることを学校に確認した。

   バイクレース大会への参加は、部活動から明確に区別されることになった。

   「伊豆総合高校 原動機研究部」の名前だったフェイスブックページも、もともと学校公式ではなかったため改名が必要となった。「入学を考えている中学生が、本校公式の部活フェイスブックと勘違いしてしまう可能性があるので名前を変えてほしい、と保護者会で説明しました」(顧問)。現在「双輪道 練成会」を名乗って更新を続けている。とはいえ、「有志」側は個人活動ではなく、「部活動」として後輩世代に残したいとも希望しており、双方の溝は埋まりきったとは言いがたい状況だ。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

姉妹サイト