アジア初開催となった「ラグビーW杯2019日本大会」決勝戦(2019年11月2日、横浜国際総合競技場)――。南アフリカ(南ア=世界ランク3位)ベンチは、ノーサイドの笛が鳴る前から、すでに抱き合っていた。32-12。イングランド(同1位)に対し、2トライ2ゴール以上の点差をつけていた。
ホイッスルが鳴った。白人も黒人も関係なく、汗にまみれたジャージでもみくちゃになった。同国初の黒人主将となったシア・コリシ選手(FL=フランカー)が高々と「ウェブ・エリス杯」を掲げた。W杯優勝3度の原点には、マンデラ元大統領と「1人の男」がいた。
ディフェンスで、どんどん前に出続ける南アの力
試合後、コリシ主将は、
「我が国には、たくさんの問題がある。しかし、バックグラウンドの違う面々が団結し、1つになって戦うことで、素晴らしい結果を得られることが証明できた」
ラシー・エラスムスHC(ヘッドコーチ)は、
「国では、政治的なことに加え、殺人事件もある。でも、ラグビーの80分間だけは、国民に幸せになってほしい...という思いで、やってきた」
と振り返った。
イングランドとの決勝戦、南アはセットピース(スクラムやラインアウトなど試合再開のプレー)で優位に立った。しかし、ボール支配率は、イングランドが56%、南アは44%。逆にタックルの成功は南アが154本、対してイングランドは92本。ラグビーとは面白いスポーツで、ディフェンスをしながらでも前に出さえすれば、敵陣へと入っていける。
実際にイングランドボールであるにもかかわらず、南アにどんどん押し込まれていくシーンが何度も見られた。つまり、南アはディフェンスで相手を圧倒し、敵陣に入り、最後はスピードのある両翼へ回す展開を続けた...ということだ。
この南アのディフェンス力は日本戦でもみられ、日本が何度もジャッカル(ボールを奪われる)された。南アの優勝は、このディフェンス力の賜物といえる。