「大統領職に敬意を払うからこそ、正々堂々と抗議する」
一方で、「ああいうブーイングは、アメリカ的ではない」との声もある。一部の反トランプ派のなかには、「トランプ氏が使うような言葉やブーイングを浴びせれば、トランプ氏と同じレベルになり下がり、米国を二分するだけだ」との思いもある。前出のスカボロー氏も、「私たちはアメリカ人。アメリカ人はああいうことはしない」と発言している。
FOXニュースの番組司会者ダナ・ペリーノ氏は、「トランプ氏があの場でブーイングされるとは夢にも思わなかった。自分があまりにもナイーブだった。アメリカ人はあんなことをせず、声援を送ると思った」と語り、一部の民主党支持者から「あまりにアメリカの現実を知らなすぎる」と驚かれている。
こうした声について意見を求めると、米中西部ミネソタ州セントポールに住むコニー(50代)は、きっぱりと言い切った。「ここは北朝鮮じゃないのよ。大統領であろうと誰であろうと、恐れることなくブーイングできるのが、自由の国アメリカの素晴らしさだわ」
ブーイングはアメリカ的なのか。アメリカらしからぬ行為なのか。これまでにブーイングを浴びせられた大統領は、トランプ氏だけではない。大統領職に敬意を払うからこそ、それが侵されていると信じるなら、正々堂々と抗議する。1773年にイギリスが制定した茶条令に反対し、ボストン港で茶箱を海に投げ捨てたように。
ワールドシリーズのスタジアムでブーイングし、「Lock him up!」と合唱した人たちは、自分こそ真のアメリカ人だと自負しているに違いない。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。