海外渡航の自由「簡単に制限していいものではない」と主張
もう1つ論点になっているのは、国側が踏んだ手続きについてだ。原告側は、「在クウェート日本国大使が、理由提示や聴聞・弁明の機会を一切付与しなかったのは、行政手続法の趣旨、目的やその瑕疵の程度、内容から見ても、極めて重大な手続的瑕疵であるというべき」などとした上で、「違法」などと展開している。
行政手続法第13条1項1号では、行政庁が不利益処分をしようとする場合、意見陳述のための手続きを執らなければならない、などと定めている。告知聴聞の手続きは、旅券返納命令を出す際には原則、必要とされている。原告側は訴状でも、在クウェート日本国大使が旅券返納命令の処分をしたことについて、「不利益処分に告知聴聞手続を求める憲法31条に違反する」と言及している。
一方の国側は、行政手続法13条2項1号の「公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続きを執ることができないとき」に当たるとしており、「ブルガリア、トルコ等への渡航の意思を依然として有していたことは否定できない」「原告が、出国時における外務省職員に対する申告内容を変更し、かかる地にあえて赴くこととなったこと自体、旅券返納手続きの告知・聴聞を待っていては、旅券返納手続を完遂すること自体が危ぶまれる状況にあった」などと主張。
これに山下弁護士は取材に対し、「何の告知聴聞もしてなくて、いきなり旅券返納命令が出ている。向こうは、別の国に渡航して、どこに行ったかわからなくなるから緊急というが、緊急性はない。写真はネットで取ったもので、(戦闘員と)接触していませんなどと、いろんな反応ができた」と訴える。
また、山下弁護士は、「ごく普通の人が何かの拍子に疑われる」ことで、旅行できなくなってしまうことは、「非常に恐ろしい」と危惧する。「海外渡航の自由は憲法上の権利だが、いとも簡単に取り上げられてしまう。簡単に制限していいものではない」。