渡航前にも外務省職員に囲まれた
原告の職業はアルバイト。報道関係者などではなく、中東への渡航歴もない。だが、原告などによると事の原因は、あるイスラム法学者からアラビア語を習っていたことだったとみられるという。
女性は高校を卒業後、06年ごろに外国語専門学校へ入学。高校時代からアラビア語に興味があり、入学してアラビア文字を練習するためのノートを買って独学を試みたが、挫折した。学校では、スペイン語や英語を学んだ。07年ごろ中退したが、英語の勉強は続けていた。08年ごろに旅券を取得。海外の文化に触れようと何度も海外旅行を経験し、韓国やアメリカ、カナダなどに行った。旅行を通じ、文化や現地の人々に触れる喜びを学ぶことができたという。
11年ごろから再びアラビア語への興味を持ち、テキストなどを購入した。
以前から、このイスラム法学者の存在は知っていた。女性はこの法学者を「アラビア語ができる有名な人」として認識。「日本で1番アラビア語に詳しい人」だと考え、15年9月ごろにツイッターを通じてコンタクトを取り、個人的に教わるようになった。
レッスンを受けたのは、4~6回。女性は、「主にカフェで勉強していました。『どの辺住んでいるんですか』など、そういうところまでは話さなかった。1人の先生という認識しかしていない」と法学者との関係を振り返る。教わり始めてから約3カ月後、知り合いから「あまり接触を持たない方がいいのでは」などとアドバイスを受け、レッスンをやめた。学者とは、16年1月ごろに関係は切れた。
女性は16年7月ごろから、イスラエルやトルコへの旅行を計画。イスラエルまでの航空券を購入し、17年1月に成田空港から出国することにした。出発日当日、成田空港に行くと外務省の職員がいた。職員からは「何のために渡航するのか」と質問された。解放はされたがイスラエルに入った後、別室で英語による取り調べを受けた。「観光目的で来た」と何度も説明しても納得はしてもらえなかった。質問では、イスラム法学者との関係を聞かれたこともあった。イスラエルへの入国は拒否された。
その後、ブルガリアのソフィアや、トルコのイスタンブールへの旅行を計画し、17年5月15日ごろ成田空港から出国することにしたが、空港で外務省の職員とみられる十数人に囲まれ、渡航先や渡航経路、電話番号やSNSのIDなどを教えるように言われた。女性はインスタグラムのIDを教え、解放されたという。
成田空港から、アラブ首長国連邦のアブダビ国際空港を経て、ブルガリアのソフィア、トルコのイスタンブールへ向かうことを予定していたが、成田空港での出来事を受け、アブダビ国際空港に到着後、今後の旅行をどうするか考え直した。一旦は渡航を中止して帰国しようと考え、日本に帰る航空券を購入。だが、帰国をやめ、予定通り旅行を続けることにした。
女性はアブダビ国際空港からクウェートを経由し、オランダからブルガリアに行くチケットを購入し、クウェート空港に向かった。最も値段の安いブルガリア行きの航空券を取り直したところ、偶然にも渡航先にクウェートが含まれていたという。だが、クウェート空港で取り調べなどを受け、旅券返納命令が出されたのは前述の通りだ。