製薬大手、エーザイ株に買いが集中したため2019年10月23日、24日と2日連続で制限値幅の上限(ストップ高水準)で配分された。
25日になって3営業日ぶりに取引時間中に売買が成立。投資家の買いが殺到した材料は、3月に臨床試験(治験)を中止したアルツハイマー型認知症の新薬候補について、22日の取引終了後に一転して「データを検証した結果、症状悪化を遅らせる効果が認められたため2020年の早い時期に米国で承認を目指す」と発表したこと。大手証券各社も評価を格上げするなどして歓迎ムードだが、意外な展開に慎重論も残る。
一度は治験中止で株価暴落も...
人類の高齢化に伴ってその罹患者が増えている認知症は、世界の医療医薬界がその治癒のハードルの高さに直面していると言っていい。かつて「不治の病」と恐れられた病であっても、最先端の人類の英知が集められた結果、今や早期に発見し適切な治療を施すことによって罹患者の生存確率は以前に比べて格段に高まっており、「天寿」をまっとうしたといえることも珍しくなくなっている。
しかし、認知症については根本的に治療する薬がなく、世界の製薬メーカーが開発にしのぎを削ってきた。それでも壁は厚く、米ファイザーやスイスのロシュなど、治験の失敗が相次いでいる。発病のメカニズムがはっきり解明されていないことが背景にあり、治験で薬の有効性を合理的に示す方法も確立していない。
こうした中でエーザイが米バイオジェンと治験を進めていた新薬「アデュカヌマブ」は、アルツハイマー型認知症について、病気の進行そのものを抑える効果を狙うものだ。しかし、そのエーザイ・米バイオジェン連合の挑戦も2019年3月、最終段階の治験の結果から主要評価項目の達成が難しいと判断して治験を中止すると発表、両社の株価は暴落した。
5000円台から8000円近くまで戻す
それが一転して、結果を再分析したところ、症状悪化を遅らせる効果が認められたため米国で承認申請を目指すというのだから、株式市場には「ポジティブ・サプライズ」(SMBC日興証券)だった。野村証券は投資判断を3段階の真ん中の「Neutral」から最上位の「Buy」に格上げし、目標株価を5500円から15000円に引き上げた。大和証券は投資判断を5段階で最下位の「5」から「4」に格上げし、目標株価を3400円から4500円に引き上げ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は3段階の真ん中から最上位に格上げし、目標株価を5000円から10900円に引き上げた。「アデュカヌマブ」と同様の効果を求めて開発を進めている「BAN2401」への期待が復活するとの指摘も聞かれた。
エーザイの株価は3月の治験中止発表前につけた9679円(現在の年初来高値)から9月4日の年初来安値5205円まで下落したが、「承認申請」を追い風に一時は8000円台半ばを記録。その後はやや落としたものの、10月29日時点でも8000円弱をマークしている。
ただ、いったん治験中止と発表していた薬を承認申請する例はあまりない。エーザイ株の今後のさらなる上昇には懐疑的な見方もある。