緒方貞子さん死去、92歳 元難民高等弁務官、世界の紛争地に足運ぶ

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博士論文のテーマは「満洲事変」

   曽祖父が青年将校らに暗殺され、戦前に外交官だった祖父や父も「反軍部」だったという緒方さん。「日本はなぜあのような戦争に突入したのか」という疑問は、一族の思いでもあった。そんなこともあり、博士論文のテーマは「満洲事変」。関東軍の若手参謀の詳細な日誌を入手し、米国仕込みの最新の研究手法でダイナミックに分析した。

   単に「軍部が悪かった」と決めつけるのではなく、関東軍の考えを「社会主義的な帝国主義」と位置付け、思想的な側面にも切り込んだ。すぐに米国で出版され、66年に『満州事変と政策の形成過程』として日本でも出版された。2015年には中国語版も出た。

   名門の出身で、語学力も並外れていたこともあって、「日本代表」として多数の国際機関に関係したが、「自分から手を挙げた仕事はあまりなかった」。しかし、仕事を始めると、俄然ファイトがわいて、次第に天職のようになり、全力投球することになったと振り返っている。

   夫の緒方四十郎さん(1927~2014)は日本銀行理事、日本開発銀行副総裁などを務めた銀行マン。義父の緒方竹虎は、朝日新聞社副社長・主筆、情報局総裁、内閣書記官長、内閣官房長官、副総理などを歴任し、吉田茂のあとに自由党総裁にもなった。戦争と戦後の復興に深く関わった人物だ。

   夫が元気だったころ、『二人の昭和史』という本を書いたら面白いかもしれないと話し合ったことがあったという。昭和の政治史と、両家の個人史を重ね合わせるとなかなか面白いのではないかと。構成をいっしょに考えたりしていたが、二人とも忙しくていつの間にか立ち消えになったという。

   四十郎さんが亡くなった後に刊行された『緒方貞子回顧録』(岩波書店)で夫についてこう語っている。

「私が日本を離れていろいろな仕事を続けられたのも、緒方のサポートがあったからです。向こうがどう思っているかわかりませんが(笑)、パートナーとして感謝してもしきれないと思っています」
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