政府が、安全保障上、重要な日本企業への外資の出資規制を厳しくする。
中国による企業買収で先端技術や機密情報を取得されるとの懸念から、米国を中心にした規制強化の動きに歩調を合わせるものだが、対日投資が減ることで経済へのマイナスを懸念する声もあり、安保と経済のどちらに重きを置くかで新聞の論調も分かれる。
「中国包囲網」の抜け穴になるわけには...
10月18日、外為法の改正案を閣議決定し、開会中の臨時国会に提出した。今回の改正の背景には米中のハイテク覇権争いがある。中国企業が先端技術を持つベンチャー企業を買収したり、株式取得して大株主として共同研究などを通じて技術を取得したりするといった事態を避けるため、米欧は近年、規制を強めている。そんな「中国包囲網」の抜け穴に、日本がなるわけにはいかないというのが法改正の狙いだ。
現在、外国人投資家による日本企業への投資は原則自由だが、上場企業の発行済み株式の10%以上取得の場合、政府への事後報告が必要。原子力や電力・ガス、航空宇宙、サイバーセキュリティーなど安全保障に関わる事業を手掛ける日本企業については、事前に届け出が必要で、審査の結果、問題ありと政府が判断すれば、投資の変更・中止を求める「勧告」や、従わない投資家に株式売却などを命じる「措置命令」を出せる。
今回の改正は、安保上重要企業の事前届け出基準を「10%以上」から「1%以上」に引き下げるのがポイントだ。外国投資家がすでに出資した日本企業に役員選任や重要な事業の売却を提案する場合なども事前届け出の対象に加える。
「物言う株主」が排除される?
問題は、経営への関与を目指さない外国の運用会社などの投資などとどう区別するかだ。中小型株なら数億円の投資で「1%」に達してしまう。現在、日本の株式市場の売買代金の6割以上を海外投資家が占め、株式保有比率も3割に達しており、今回の規制強化で海外投資家が投資を控えると、日本の株式市場の下落を招きかねない。
これについて政府は、海外からの懸念に対応し、経営に関与する意図のない外国の資産運用会社などは事前の届け出制の対象外とすると説明している。
ただ、なお問題は残る。「経営に関与しない」のが条件だから、アクティビストといわれる「物言う株主」の排除につながるとの懸念だ。過去、「乗っ取り屋」といわれたケースもあるが、近年では株主提案を通じて企業に経営改善を求めるアクティビストは企業統治(コーポレート・ガバナンス)の上で重要な役割を果たしてきている。財務省は届け出免除の対象の基準として「役員に就任しない」「事業の譲渡・廃止などを提案しない」などを例示しているが、アクティビストは不採算事業からの撤退などを株主提案することも珍しくないし、企業の不祥事に絡んで役員を送り込むといったケースもある。「こうした活動が鈍れば、企業統治改革が後退しかねない」(アナリスト)との声は少なくない。
「中国封じ込め」と評価する産経だが
大手紙のこの問題への関心の度合いはかなり差がある。まず、安保の観点から厳しい管理を求めるのが産経。法案概要が明らかになった10月9日朝刊1面3段見出しで「規制厳格化/中国へ機密流出防止」の本記を載せ、2面に「厳格化で中国封じ込め」との3段見出しの解説記事。さらに13日の「主張」(社説に相当)で「厳しく管理すべきは当然である」「日本が規制の抜け穴となるわけにはいかない。これを避けるためにも制度の実効性を高めるよう運用に万全を尽くす必要がある」「日米欧で......情報を共有し、協調行動を取れるよう、連携を密にすることが肝要である」と、政府に発破をかけている。中国への厳しい態度を旨とする産経らしい論調と言える。
一方、経済紙らしく、日経は産経とほぼ正反対の論調だ。この間、一番高い関心を示し、9月18日朝刊1面トップで「外資の出資 規制を強化」と報じて以降、何度も大きく書いているが、規制の「行き過ぎ」への懸念を訴える記事のオンパレード。法案がまとまった10月9日朝刊で、内容を説明した本記に続き、「日本株離れに懸念も」と3段見出しの記事で詳しく解説。その後も、「『外資1%規制』に波紋/通常取引に影響か/対日投資妨げぬ工夫を」(16日15面)、「改正案を閣議決定/届け出制、不透明/統治改革に逆行の声」(19日朝刊7面)、「『米に配慮』色濃く/『物言う株主』も意識か」(22日7面)と、大ぶりの囲み記事を繰り返し掲載している。
朝日、毎日などは関心薄?
9日の社説でも取り上げ「国の安全や防衛に関する機微技術の海外流出に政府が神経をとがらせるのは当然だ」としつつ、「海外から日本への直接投資がさらに減る事態になれば、日本経済にとって大きなマイナスだ」と懸念を強調。「海外株主の声が封じ込められたり、企業買収が難しくなったりすれば、市場の機能は損なわれ、効率の低い企業経営が温存されてしまう。......市場を閉ざすばかりでは日本経済の復活はないことを肝に銘じたい」と、強く牽制している。
これ以外では、朝日、毎日は法案の概要判明や閣議決定の際に、経済面などで2~3段見出しで簡単に報じている程度。読売は8月30日朝刊で「日本株保有 届け出厳格化」と逸早く報じたほか、閣議決定を受けた10月19日朝刊の経済面トップで大きめに報じたが、「外資規制 日本株離れ懸念/手続き煩雑なら『撤退』も」と、日経同様、海外からの投資減への懸念を強調する記事を載せた。産経と同じ保守的論調が目立つ読売だが、さらに27日朝刊では「『日本株離れ』防ぐ配慮も要る」と題した社説を掲載、政府の対応に理解を示しつつも、「対日投資を呼び込み、成長につなげるのが政府の基本方針ではある。海外投資家が日本市場を敬遠しないように知恵を絞りたい」と呼びかけた。