嵐の前の静けさ? 中東緊張でも動き小幅な「原油相場」の怪

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   米トランプ政権のイラン核合意離脱を契機として中東情勢が不安定化する中、影響が懸念されるのはやはり原油相場の動きだ。

   現状では、攻撃を受けたサウジアラビア石油施設は思いのほか急ピッチで復旧し、国際石油市場の相場も落ち着いている。これは嵐の前の静けさなのか。

  • サウジ・アラムコ本社。その上場の行方も含め、なお一波乱?
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9月には国営会社施設が襲撃。世界の「5%」ストップ

   中東のアラブ世界の構図は大まかに言えば、スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアと、シーア派のイランの対立だ。エジプトなどで独裁政権を倒した2011年からの「アラブの春」以降、情勢が不安定化するこの中で、シリアで親イランのアサド政権と民主化を求めて蜂起した反政府勢力の内戦が激化し、サウジが反政府勢力を支援。一方、サウジの南隣のイエメンではシーア派勢力「フーシ」が反乱を起こし、サウジが政権側を軍事支援して内戦が泥沼化するなど、混乱が続いている。

   米国はオバマ政権時代の2015年に米欧中露6カ国とイランの核合意をまとめ、イランが核開発を抑える見返りに、2016年から経済制裁を緩和したが、トランプ政権が2018年5月に合意から離脱し、制裁を復活したことからイランとの対立が激化している。

   その中で、2019年6月以降、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶイラン・アラビア半島間のホルムズ海峡で日本関係を含むタンカーへの攻撃が相次いだ。9月14日にはサウジの国営石油会社「アラムコ」の石油施設がドローンなどによる攻撃を受け、実に日量570万バレルの生産が止まった。この量はサウジの石油生産の半分、世界全体の5%にあたる。サウジは復旧を急ぎ、10月3日にエネルギー相が攻撃前の生産水準を回復したと発表している。さらに、10月11日にはイランが、サウジ西部沖の紅海で、タンカーが攻撃を受けたと発表している。

   どちらの攻撃も、だれによるものかは判明していない。アラムコ攻撃はイエメンのフーシが犯行声明を出しているが、米・サウジはイランの仕業だと批判。一方、イランはタンカー攻撃を「ミサイルによるもの」として、暗にサウジの関与をにおわせており、双方、批判合戦を展開し、対立は深まっている。

攻撃直後は急騰するも...その後は元通り

   これだけの事件が続けば、原油相場は跳ね上がっても不思議でないところだが、市場はほとんど荒れていない。アラムコ攻撃直後の9月16日こそ、ニューヨーク原油市場で指標となるテキサス産軽質油WTI先物価格は1バレル=62.90ドルと前日比15%ほど急騰したが、翌日には反落し、その後は少しずつ水準を下げ、ほどなく50ドル台前半に戻した。イランタンカー攻撃でも、55ドルレベルまでしか上がらず、その後も50~55ドルでの小動きが続いている。

   この落ち着きは、なぜなのか。もともと市場にとって最大の関心は原油需給で、米国のシェールオイル増産に加え、米中貿易戦争を契機とする世界経済の減速懸念で需給緩和への思惑から相場は弱含み、サウジなど石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEG産油国は協調減産で価格維持に努めている。サウジ攻撃後、この減産を補うため他国が増産に動いたとの情報が飛び交い、サウジ自身が他国に増産を依頼したとの説も駆け巡ったほど。いずれにせよ、サウジの生産回復で生産過剰になるとの懸念が市場では強いと言われる。

   特に、サウジはOPECの盟主だけに、これまでのように協調減産を主導できるか、疑問視する声もある。協調減産は2020年3月までで、この12月のOPEC総会で減産延長を決めないと2020年前半に供給過剰から原油価格が下落するというのが国際的な常識だったが、サウジの減産、生産回復、他国の増産などが絡んで、OPECの合意は難度が高まったといえる。

とはいえ、今後も不透明な状況は続く

   他方、この間の事態で中東の地政学リスクは新局面に入ったとの見方もある。サウジの石油施設への攻撃は、わずか2つの施設だけだったのに、サウジ全体の生産量が一気に半減した衝撃は大きい。同様の攻撃の再来でサウジの生産に再び支障が出るようなことがあれば、今回とは比較にならない大きな影響を世界経済に与えかねない。

   さらに、今回のサウジへの攻撃は、アラムコの株式公開(IPO)計画にも影を落としている。サウジは年内のIPOに向け、投資家に財務状況などを説明する目論見書を10月中に公表する計画と伝えられる。従来、世界のいくつかの市場に上場し、2兆ドル(216兆円)の資金調達を見込むとされてきたが、今回の攻撃で、期待通りの高値での株式売り出しができるか、疑問視する声が強まっている。事実、英フィナンシャル・タイムズなどは17日、IPOを延期する方針だと報じている。

   アラムコ上場による資金はサウジが進める「脱石油依存」の経済構造改革に充てる計画だった。資金調達がうまくいかず、改革が進まないようなら、サウジの国内政治の動揺など、新たな波乱要因を生じかねない。

   米・サウジとイランの対立を軸にした中東情勢の不透明感は容易に払拭できず、世界経済の不安要因であり続ける。

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