米シェアオフィス「WeWork(ウィーワーク)」を運営するウィーカンパニーの上場とりやめで、最大の株主であるソフトバンクグループ(SBG)への影響、孫正義会長兼社長の対応策に関心が集まっている。
ウィーワークのビジネスモデルを確認しておくと、家主からオフィスの長期賃貸の合意を取り付け、内装をきれいに施した共有オフィスを、最先端のスタートアップ企業など新興企業を中心に貸し出すもので、特定のオフィスに限らぬ利用が可能な「シェアオフィス」だ。特に、SBGの出資を含む巨額の資金を生かしてシェアを獲得し、ライバルを凌駕していく戦略をとっていたとされる。
470億ドルに達したとされる時価総額。現在は?
SBGは運営する10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」と本体を合わせて100億ドル超(1兆円超)をウィー関連に投資している。資金は数次にわたって投じられ、2019年1月に20億ドルを追加出資した際のウィーの時価総額は470億ドル(5兆円近く)、その時点のSBGのウィー向け投資の含み益は1兆円を超えるとされた。
ここがピークで、その後、事態は暗転する。ウィーはこの秋に株式を公開する計画だったが、「実態は貸しビル業で特段の先端テクノロジーがあるわけではない」(アナリスト)といったビジネスへの疑念が根強かったうえ、共同創業者のアダム・ニューマン最高経営責任者(CEO)が低利で会社から多額の資金を借り入れたり、自身の所有ビルを同社に貸したりといった「利益相反」がメディアで取り上げられ、上場延期になるとともに、ニューマン氏も9月下旬、CEO辞任に追い込まれた。
470億ドルにも達したとされた時価総額も、直近は半分以下の200億ドルとも、150億ドルともいわれる。
時価総額が200億ドルまで下がると含み損は...
このウィーの失速がSBGを直撃した。米アナリストなどの試算では、ウィーの時価総額250億ドルならSBGは多少の含み益をなお保持するが、時価総額200億ドルではSBGに13億ドルの含み損が発生、時価総額150億ドルまでになると含み損は70億ドル程度に拡大するという。
SBGが投資した中で、株式公開に到達した銘柄も、調子は良くない。目玉投資先だった米配車大手ウーバー・テクノロジーズは、公開価格から足元で3割程度下げたのをはじめ、ファンドが投資してすでに上場した6社のうち5社が過去3か月、下落している。
問題なのは、SBGの投資の基本戦略と、その投資先の評価についても疑念を呼んでいることだ。SBGはこれと狙いをつけた創業者・新興企業に巨額の投資をし、資金力を使ってその業界の圧倒的な勝ち組にするというものだ。「勝者総取り」戦略ともいわれる。ウィーが躓き、ウーバーも失速となると、そうした戦略を不安視する向きが出てくるのは当然だ。
これと絡んで、投資先の評価が課題なのではとの疑いもわいてくる。年明けの追加出資の際のウィーの時価総額470億ドルというのは、非上場だから、市場の客観的な評価ではなく、出資するSBG側がそう評価したということ。「前に安く出資した分は、高く追加出資した瞬間、その価格が時価となり、含み益が生ずる」(市場関係者)というある種の錬金術にも見える。
支援は行うものの...?
ウーバーにしても、公開価格が高すぎたとすれば、過大評価だったということになる。もちろん、恣意的に評価しているということはなく、株式全体の市況にも左右されるが、こうしたものは逆回転が始まると、なかなかもりかえせないこともある。
そうはいっても、例えば中国ネット通販のアリババ集団に12兆円などSBGの保有株式は27兆円になり、アリババの株価は堅調で、これだけで兆円単位の含み益があり、子会社の通信会社ソフトバンク(SB)の株4.7兆円もなお保有し、SB株はこのところ、2018年末の公開価格1500円を回復して、こちらも堅調。「SBGはウィーなどで少々の損をこうむっても、びくともしない」(アナリスト)と評されるゆえんだ。
これまで、投資先にあまり口出ししないことを旨としてきたSBG。ウィーに対しても、日経新聞(電子版)の17日報道では、5400億円の支援を行う一方、連結子会社とはしない方針だと報じられている。とはいえ、上記の記事でも指摘される通り、こうした姿勢には懸念の声も。孫正義氏の次の一手が注目される。