日本列島を熱狂の渦に巻き込んでいる「ラグビーW杯2019日本大会」。日本代表は、予選プール最終戦でも28-21でスコットランドを下し、見事に首位で突破した。
テレビ視聴率も、同試合の平均視聴率が39.2%(日本テレビ系)を記録した。ビデオリサーチによると、試合終了間際、FB(フルバック)の山中亮平選手がタッチライン外に大きくボールを蹴り出して勝利が決まった21時41分には、瞬間最高視聴率の53.7%(関東地区)を記録したという。
同試合は、2019年に放送された全番組でもトップだそうだ。記者の周囲でも、ラグビーの話題で持ちきりだ。一方で、中継の中で耳にする「オフロードパスって、何?」という声も聞かれる。プレーと取材で30年以上、ラグビーに携わってきた記者が紐解いてみよう。
「タックルされながらも...」
まず「オフロード」という言葉だが、これは車に例えると分かりやすい。スポーツカーのような高速で走れる車は「オンロード」と呼ばれる。一方で「道なき道を進む」四輪駆動車などは「オフロードカー」。本来は、「ロード(Load)」は荷物の意味だが、イメージしやすいように、そう考えていただきたい。
ラグビーは「横か後」にしかパスを投げられないが、バックス(BK)が次々とボールを回していく行為は普通のパス。これに対して「タックルされながらも繋いでいくパス」が「オフロードパス」ということである。
2019年10月13日に行われたスコットランド戦では、4本の「オフロードパス」を繋いで、最後はPR(プロップ)の稲垣啓太選手がトライを決めた。このトライは、稲垣選手が日本代表として初めて決めたものだった。試合後のインタビューでは、
「トライって、こんな気持ちなんだな...って思いました」
といったコメントを残している。
では、日本代表はなぜ「オフロードパス」を多用できるようになったのか?
昔は「やるな!」と注意されたが...長期合宿で「ONE TEAM」となった賜物
記者は現役時代、WTB(ウイング・スリークオーター・バックス)でプレーしていた。WTBとは、文字通り「翼」という意味で、両翼からスピードで一気に走る。現日本代表でいうなら、福岡堅樹選手、松島幸太朗選手のポジションだ。
しかし、WTBはタッチライン際を走るため、相手にタックルされて押し出されると「相手ボールのラインアウト」となってしまう。そこで、片手で必死にボールを返すのだが、当時のコーチからは「そんな軽いプレーをするな! 相手にボールを奪われたらカウンターを食らうぞ!」と怒られていたものだった。
しかし、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は代表を招集し、「世界一」とも言われるハードな合宿を行った。その練習の中で、スローガンでもある「ONE TEAM」を作り上げていった。
「倒れながらも放れば、必ずアイツがサポートしに来ている」。この例えには違和感がある人がいるかもしれないが、サッカーやバスケットボールでいうところの「ノールックパス」とほぼ同義だと思っていただいていい。強い信頼感と結束力で「オフロードパス」に磨きをかけた。
確かに相手にインターセプトされてしまうと、敵のビッグプレーに繋がる「諸刃の剣」でもある。しかし今の日本代表は「絆」がある。だからこそ、できるプレーとも言える。
次は10月20日、南アフリカ戦(東京スタジアム)だ。ここで、どんな「オフロードパス」を見せ、相手を切り裂いていくのか...注目したい。
(J-CASTニュース編集部 山田大介)
【10月18日昼追記】「オフロードパス」の「ロード(Load)」の語義について追記しました。また、これに伴い一部表記を修正しました。