サッカーJ2・FC町田ゼルビアが「FC町田トウキョウ」に改名すると表明したことをめぐる反発が止まらない。2019年10月11日に開いたサポーターミーティングで反対意見が相次ぎ、クラブオーナーの藤田晋氏(サイバーエージェント社長)は改名を保留。着地点が見えていないが、なぜここまで反対意見があがる結果となったのか。
その背景について、サッカージャーナリストの石井紘人氏は「サポーターの声を聞いているかどうか、不安にさせるやり方だった」とした上で、反発の背景には「順番の問題があると思う」と指摘する。
「サポーターの声を聞く気はあったのでしょうか?」
サポーターミーティングに登壇した藤田氏は「慣れ親しんだゼルビアという名前を、リブランディングしなければならない」として、「FC町田トウキョウ」への名称変更やロゴマークの変更を表明した。選手にかける人件費でJ1クラブに大きく水をあけられており、今後J1昇格、さらにはACLという国際舞台を目指すには、「東京全域でのマーケティング」と「スポンサー獲得」が急務とする。そのためにブランド力ある東京という都市名をチーム名に入れ、リブランディングを図りたいという。
だが質疑応答ではサポーターの不満が爆発し、「『東京』という名前には(クラブとしての)ストーリー性が一切感じられない」「今まで積み上げてきたものが『価値が無いもの』と言われてしまっているような気がする。拠り所にしてきたのは『FC町田ゼルビア』という名前と、顔であるエンブレム」といった反対意見が続出した。
中でも若年男性が涙ながらに「僕達サポーターの声を聞く気はあったのでしょうか? 僕らの声は何も届かないんですか?」と訴えると会場は拍手で沸いた。藤田氏はこの質問に「クラブ名を変更する時に、サポーターの意見を聞かなかったのは正直ミスだった。申し訳ございませんでした」と「サポーター軽視」を謝罪。猛反発を受け、最後は改名について「全員の賛成を得るのは無理だと思っていますが、一旦保留にします」と表明することになった。
東京都町田市をホームタウンとする町田ゼルビアは前身の「FC町田トップ」時代も含めると30年近い歴史を持ち、「ゼルビア」の名は1998年から使い続けてきたものだ。しかし18年10月にサイバーエージェントが経営権を取得し、藤田氏がオーナーに就任。ユニフォームの胸スポンサーも同社グループの「AbemaTV」となり、転換期を迎えている。改名を実現したクラブは過去にもあったが、今回の町田の問題はツイッターなどでも「炎上」の様相を呈すほど批判を浴びている。
「町田ゼルビアを活性化させたいのではなく...」
サッカージャーナリストの石井紘人氏はJ-CASTニュースの取材に「サポーターの声を蔑ろにしてしまった」と話す。藤田氏自身も上記のとおり、改名にあたって意見募集などをしなかったため謝罪しているが、それだけではない。
「ホームスタジアムの町田市立陸上競技場最寄りの町田駅は、新宿から電車で30~40分と割と近いんです。でも駅からスタジアムまでが遠い。バスで20~30分、そこからさらに山を10分くらい歩かないといけない。
ファンは藤田さんがオーナーになった時、『町田駅前にスタジアムを作ってくれるのではないか。行政に働きかけてくれるのではないか』と期待していました。町田はもともと駅前にスタジアムを建設する計画がありましたが実現できていないのです。駅から徒歩圏内にスタジアムができたら、クラブや町の活性化に大きな影響を与えます。
ところがそういう話はなく、『名前を変えて東京・世界に打って出たい』みたいな話が出てきた。それは町田ゼルビアを活性化させたいのではなく、町田ゼルビアを移転させたいのと一緒じゃないかと受け取られました」
藤田氏は「ゼルビア」という名前について「意外と覚えづらい」「ゼルビアを残し、かつ東京を入れるチーム名もあらかた検討したが、結局長い」として改名に理解を求めた。海外の選手・スポンサー獲得を見据えてのことだろうが、こうした説明は過去のJクラブの例とも矛盾しないかと石井氏は指摘する。
「かつての『ジェフユナイテッド市原』は、『ジェフユナイテッド市原・千葉』になりました。『コンサドーレ札幌』も『北海道コンサドーレ札幌』になりました。そういう例があった中でいきなり『ゼルビア』を消そうとしたから、サポーターからすると『なぜゼルビアはダメなのか』と思うのは自然です。今までのチーム名に愛着はないのか、自分たちを無視して新しいマーケットに働きかけたいのではないかと勘繰ってしまいますし、そう映ってしまいます」
藤田氏が誤った「順番」
石井氏は「今は保留ということですが、藤田さんは改名については一旦折れそうな気がします」とし、改名にあたって足りなかったことを次のように指摘している。
「順番の問題があると思います。どうしてもサポーターが置き去りになっている動き方をしています。たとえば先に町田駅前に立派なスタジアムを作ると決め、その後に『町田から世界に打って出るには東京の名前が必要だ』と言えばまだ違ったでしょう。そうした施設の整備より、ゼルビアの名称変更が先に来てしまったから、全然別のチームになってしまうという不安が募ってしまった。
改名そのものというより、プロセスに問題があったと思います。順番を整理してやっていればもう少し聞き入れられたのではないでしょうか。『町田ゼルビアのことを思ってやっている』と行動で示すことが足りなかったのだと思います」
(J-CASTニュース編集部 青木正典)