最大の「負け組」は上海?
地球温暖化の中国への影響をまとめた資料を改めて調べてみたところ、「中国科学院」は2014年に発表した「チベット高原環境変化の科学的評価」で、「チベット高原では今後、気候変動による温暖化、湿潤化の傾向が一層鮮明となる。2050年前後には西北地域全域で渇水がなくなるだろう」と早くも指摘していた。
西北地域の人々は、「大唐時代の繁栄回復が現実的になった」と喜んでいるようだ。唐の都、長安はいまの陝西省西安。陝西も甘粛もいまでは「不毛」のイメージが強いが、約千年前の唐の時代には、一帯の植生被覆率は現在の江南地域とほぼ同じだったという。豊かな自然があって初めて、多くの人口に食べ物を供給できる農業が可能となり、にぎわいが生まれたわけだ。
繁栄回復はともかく、緑化は確かに喜ばしい。ただ物事には必ず表裏があり、全国民がこぞって喜んでいるわけではない。最新の『中国海水面官報』によれば、1980年から昨年までの間に、中国沿海の海水面は年間3.3ミリずつ上昇しており、これは同時期の世界平均を上回っているという。沿海地区がじわじわと脅威を受け始めていることを意味する。特に上海のここ30年間の沿海海水面上昇は115ミリで、全国平均よりはるかに大きい。中国で地勢が最も低い都市である上海は、温暖化による最大の「負け組」になるかもしれない。
西北にとっても気候変動はプラス面ばかりではない。新疆ウイグル自治区タクラマカン砂漠のはずれにあたる且末県では、19年6月26日の降水量が48.7ミリに達した。同地の年間平均降水量は20ミリほどで、6月の平均は6ミリ。この日はわずか10時間で2年分の雨量を記録する異常気象だった。また、チベット自治区でも溶解した氷河が崩れ落ち、人や動物が巨大な氷塊の下敷きになる被害も発生している。
不毛の地の緑化という「一大事」を通じて、地球は人類に何事かを伝えようとしているのかもしれない。
(在北京ジャーナリスト 陳言)