スーツ大手のはるやま商事(岡山市)が公開した動画をめぐり、「固定概念的な価値観の押し付け」「家事全般を妻がこなしていると捉えられる内容」と批判が集まっている。
同社は配慮を欠いたと謝罪し、動画を非公開にした。
アイロンがけがご主人への『愛のカタチ』
はるやま商事は、新商品のノーアイロンシャツ「i-Shirt(アイシャツ)」の宣伝のため、2019年10月1日からウェブ動画を公開した。
8日現在、動画は非公開となっているが、視聴者によれば、仕事や家事、育児で忙しい女性が、夫のワイシャツのアイロンがけに疲弊するシーンが描かれている。前半は暗いシーンが続くが、後半で「アイシャツ」が紹介され、アイロンがけのわずらわしさが解消されるとのストーリーだ。
一方、夫はリビングで食事をしたり寛いでいたりと、妻に協力するシーンは描かれなかった。
アイシャツの商品ページには、「家事・洗濯・子育て... 忙しい日常の中で、これまではワイシャツにアイロンがけがご主人への『愛のカタチ』でした。これからはアイロンをかける時間を二人きりの楽しい時間へ。今までの『愛のカタチ』を振り返って、大切なパートナーに i(アイ)を届けよう!」とのメッセージが書かれている。
視聴者は反発
動画を見たという40代の男性は、J-CASTニュースの取材に、「男性がほとんど登場せず、主婦の大変さだけがクローズアップされる内容で違和感がありました」と首をかしげる。
男性は1歳の子を育てているが、「世の中の夫が全くアイロンがけをしない、ひいては家事全般を妻がこなしていると捉えられる内容に納得がいきませんでした。夫が何もせず、妻に家事育児を押し付けているかのような内容は、妻が家事育児ワンオペという状況を容認し、評価されてしまえば社会が追認することになります。男性の家事育児を進めていく昨今の動きに水を差しかねません」
20代の女性も、「働く一人の女性としてとてもやるせなくなりました」とあきれ、「男性が悪い、もっとやれ、と言っているわけではないんです。ただ、男女関係なく一人一人が苦しくても声を上げづらい世の中で、CMまでもが、悪意はなくともこういった固定概念的な価値観の押し付けをしてしまうのはいかがなものか」と問題提起した。
はるやまの見解は...
はるやま商事は7日、批判を受けて「ご覧頂いた皆様へ配慮の欠けた演出となり、不快な思いをおかけしました事を深くお詫び申し上げます」とツイッターで謝罪し、「今後は、発信する情報・表現については、より一層注意し、今後の宣伝活動に活かして参ります」とする。
同社広報に(1)具体的にどの演出が配慮を欠いていたか(2)具体的な再発防止策――などを尋ねたが、ツイッターで説明は尽くしたとして「コメントは控えさせていただく」との回答だった。
企業や自治体の広告をめぐっては、女性像・男性像の描かれ方が議論を呼び、取り下げや謝罪に追い込まれるケースが相次いでいる。こうした現象は、専門家やメディアの間で「ジェンダー炎上」と呼ばれる。
頻発する背景の一つには、セクハラ被害を訴える「#MeToo」運動や「ポリティカル・コレクトネス(政治的・社会的に公正な表現)」の広がりを機に、性差別への意識が高まった状況がある。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)