ネット金融大手のSBIホールディングス(HD)が島根銀行(本店・松江市)と資本・業務提携を結んだ。
経営不振の島根銀の救済色が強いが、SBIが構想する「地銀連合」、ひいては「第4のメガバンク」へ向けた第一歩となるか、注目される。
特に厳しい島根銀行の現状
提携内容は、SBIが島根銀に25億円を出資するのが柱。具体的には島根銀の増資分(第三者割当増資)のうち、SBI HDが19億円、SBI HDが2018年1月に設立した地銀向けのファンド「地域銀行価値創造ファンド」が6億円を引き受け、合わせて議決権の34%を握り、取締役2人を派遣する。ただし、持ち分法適用会社にはしない。
今回の提携自体は、全国の地銀の中でも特に厳しい島根銀の経営のテコ入れだ。2019年7~9月期決算は19億円の損失を計上し、2020年3月期通期の連結最終損益は23億8000万円の赤字に転落する見込みだ。今回調達する資金は投資信託の運用損の穴埋めのほか、不採算店舗の再編費用などに充当する。さらに金融とIT(情報技術)が融合した「フィンテック」などSBI得意の技術の提供も受け、サービスの質や業務効率を高めたい考えだ。
一方、SBI HDの狙いは島根銀1行にとどまらない。SBI HDは傘下にネット銀行、証券、保険などの事業会社を持つ。この提携で、島根銀の顧客に、SBIグループの投資信託や生命保険などを販売するほか、ネット証券に島根銀の顧客を誘導したい考え。こうした関係を他の地銀にも広げていくのが今後の目標だ。
島根銀行は地域経済の縮小で経営が厳しい典型的な「限界地銀」だが、似たような地銀は多い。2018年度に地銀105行のうち約4割が融資など本業で稼いだ損益が赤字。超低金利で利ざやが細り、中小地銀を中心に業績悪化は深刻。こうした地銀を放置すれば、いずれ金融不安を招き、地域経済を一段と冷え込ませる事態を招きかねない。
そんな状況のなかに「ホワイトナイト」としてSBI HDが存在感を高め、地域金融システムの危機を防ぎたい金融庁も大いに期待するのが、地銀を取り巻く今の風景だ。
すでに約10行から「連絡」が?
SBI HDは野望を隠さない。島根銀との提携発表(9月6日)に先立つ3日、東京都内で講演したSBI HDの北尾吉孝最高経営責任者(CEO)は「地域金融機関のビジネスの再構築をめざす」との目標を掲げ、具体的に「国内外のさまざまなフィンテックを活用し、地域金融機関と『第4のメガバンク』構想の実現を目指す」を打ち上げた。
イメージは、SBIグループ、有力地銀、ベンチャーキャピタルなどの出資で共同持株会社を設立し、地域金融機関に投資し、一体的事業を展開して既存の3メガバンクに匹敵するネットワークを構築しようというものだ。
この構想で大きなポイントになるのがシステム。業務効率などはもちろん、法令順守など求められる水準が上がり、体力に劣る地銀がバラバラに対応するのには限界がある。これを、SBI主導で効率的に進めようというのだ。もちろん、SBIグループの金融商品を中心に、広く顧客へ販売していくのは言うまでもない。
早速SBI HDには地銀からの打診が殺到、北尾CEOはマスコミの取材に約10行から連絡があったと述べている。市場も反応し、島根銀との提携発表から週末をはさんだ9日以降の東京株式市場では島根銀と同じように収益力や自己資本比率が高くない地銀株が物色された。例えば筑波銀が6日の終値153円から9日に168円に上昇し、その後も続伸して180~190円台で推移。栃木銀も6日の164円から直近では200円を突破。三十三フィナンシャルグループも6日の1483円から直近は1700円レベルに達するといった具合だ。島根銀も発表前の600円レベルから700円レベルに上昇している。
そして、関係者が注目するのが、シェアハウス関係の不適切な融資で経営再建中のスルガ銀だ。筆頭株主の創業家との決別やシェアハウス問題の処理が進めば、SBIとの提携の可能性もありそうだ。