JR東日本・JR東海・JR西日本の本州3社が展開するICカード、Suica・TOICA・ICOCAは、2021年春より定期券に限り相互にエリアをまたいで乗車可能となる予定だ。2019年9月20日にJR3社より発表になった。
IC定期券については、例えばSuicaエリアとTOICAエリアをまたぐ乗車が可能になるが、定期券外の区間できっぷと同様に乗り通すことはできない。ICカードが普及して発生した、エリア境界の「関所」はどの程度解決できるのか、SuicaとTOICAの事例で推察していく。
熱海と沼津の間にある「関所」
Suica・TOICA・ICOCAはPASMOなどとともに全国共通ICカードに組み込まれていて、SuicaをTOICAエリアで使ったり、ICOCAでSuicaエリアに乗車したりできる。
しかしそれぞれのエリアは互いに独立していて、JR東日本のSuicaであれば首都圏エリア・仙台エリア・新潟エリアに分かれている。エリアをまたいでICカードで鉄道を乗り通すことはできないので、東京から仙台までICカードで在来線を乗り通すことはできない。
SuicaとTOICA、TOICAとICOCAの境界も同様だ。東海道線では熱海~函南間、醒ヶ井~米原間でJR同士の境界があり、そのままICカードの境界になっている。JR東日本エリアかつSuicaエリアの西端の熱海と、JR東海東端の函南の間はいわば「空白地帯」で、熱海から西へはICカードでは乗車できなくなっている。ゆえに知らずに境界をまたいで乗り通してしまうと、下車駅で駅係員による精算が必要だ。
このため、鉄道会社はエリアをまたぐ場合は紙のきっぷを使うことを呼び掛けているが、乗り通してしまう事例が多発するエリアがある。前述の東海道線熱海~函南間と御殿場線国府津~下曽我間である。熱海~沼津間は沿線人口も少なくなく、熱海駅や沼津駅ではICカードで乗り通した乗客が改札に列をつくる光景も現れる。
国府津・米原・熱海...TOICA対応駅は増えるも、区間またぎが進まない理由
2021年春から定期券での相互利用が可能になるため、定期券を使う地元ユーザーにとってはサービスの向上になる。同時に熱海・国府津・米原もTOICA対応となりTOICAエリアが拡大するが、IC定期券以外では区間またぎのICカードは利用できない。定期券だけの対応にとどまった理由などをJR東海に取材した。
ICカードによる区間またぎ乗車が定期券のみとなっている理由について、JR東海は「技術的な限界」と答えた。ICカードの運賃処理は改札機内に運賃データを記憶させて処理しているが、エリアが広がる(例えば、TOICAとSuicaの東京エリアがつながり一体化する)と、処理速度が追い付かずエラーを起こす恐れがあるとのことである。処理速度が遅れると、「お客さまにご迷惑をおかけすることになりますし、新駅開業や制度改正等に円滑に対応できるようにする必要もございます」とJR東海はエリア拡大のハードルを挙げて答えた。
一方でTOICAエリア拡大については
「TOICAのエリア拡大(国府津、熱海、米原)により、例えば、ご利用の多い熱海~ TOICAエリアのSF'(ストアードフェア:カードから運賃が値引かれる仕組み)による乗車やTOICA定期券の発売が可能となります」
と、熱海方面からTOICAエリアへの需要の多さを認めて改善ができるとした。従来は下曽我・函南・醒ヶ井と、JR境界駅の手前のローカル駅でTOICAエリアは終わっていたが、国府津・熱海・米原からTOICAエリアにICカードで乗り通せるようになる。
沼津方面から熱海・国府津へのICカード乗車が可能になる一方、この区間には複雑な問題が残っている。新たにTOICA対応となる熱海と国府津の間にTOICA未対応の6駅(鴨宮・小田原・早川・根府川・真鶴・湯河原)があることだ。
あくまでTOICA区間に加わるのは熱海と国府津のみで、間の6駅とTOICAエリアをICカードで行き来することも従来通りできないとのこと。2021年以降も「これまでと同様に、自動改札機を利用できません。あらかじめ全乗車区間のきっぷをお買い求めいただくことになります」とJR東海は答えている。
また沼津~国府津間は東海道線と御殿場線の2ルートがあり、運賃計算も別立て。となれば、熱海~沼津間を通しで乗車した場合や御殿場線各駅と熱海駅間の運賃計算も2通りになってしまうが、これもICカードではどう処理されるのか。運賃計算についてJR東海は「具体的な内容は、決まり次第、お知らせいたします」と取材に回答しており、ICカードでの運賃計算ルールについても周知が待たれるところだ。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)