「『ご多忙』は『亡』があるからNG」ってホント? 根拠不明の「忌み言葉」が生まれるプロセス

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   日本語に関するもっともらしい、でも根拠は曖昧な「マナー」を見たことはあるだろうか。最近もこんな一幕があった。あるテレビ番組で、葬儀での喪主の挨拶について、「本日はお忙しい中...」ではなく「ご多用の中...」が正しいと、僧侶がコメントしていた。その理由は、「忙」という字に「亡」が含まれており死を連想させる、そしてこのような縁起の悪い言葉は「忌み言葉」といい、冠婚葬祭の場では避けるべきとされている――というものだった。

   しかし、これに国語学者で国語辞典編集者の飯間浩明さんは、ツイッターで疑問を表した。飯間さんは「最近のトンデモマナーの類ではないかと疑っています」と投稿し、学術的な根拠はないとしたのだ。

   本当に「忙」は「亡」が含まれるから使ってはいけない文字なのか。J-CASTニュースが取材を進めると、「俗流マナー」ともいうべき風説が拡散される構図が見えてきた。

  • 「忙」を分解すると「亡」があるのが不吉?
    「忙」を分解すると「亡」があるのが不吉?
  • 「忙」を分解すると「亡」があるのが不吉?

新旧のマナー本でも「ご多忙」OK

   「葬儀などで『忙』は縁起が悪くNG」という説、どの程度信ぴょう性があるだろうか。

   まずネット上で冠婚葬祭マナーでの言葉遣いを解説するサイトを見ていくと、意外にも「ご多忙」を挨拶の例文として載せているものは少なくない。葬儀会社のサイトでも「ご多忙」が載っており、「忙」が冠婚葬祭の場で全くの御法度というわけでもなさそうだ。

   さらに書籍を調べていくと、1979年発行の『冠婚葬祭 結婚のすべて』(保育社)では、新郎挨拶の例に「お忙しいところ...」とあり、新郎の父親の挨拶スピーチ例文でも「ご多忙中にも」と書かれていた。また2011年発行の『冠婚葬祭マナー大事典』(学研パブリッシング)でも、葬儀での喪主あいさつの文例に「本日はご多忙のところ」と書かれていた。昭和の昔でも今でも「ご多忙」を使ってもマナー違反ではないらしい。

   しかし、冠婚葬祭に限らず、マナーとして「ご多忙」ではなく「ご多用」の方がふさわしいという言説はネットで根強いようだ。「ご多用」「ご多忙」を並べて検索すると、主にビジネスマナーでの言葉遣いを解説したサイトが多くヒットする。そこには、「忙」が死に通じるとして、「結婚式などで『ご多忙にもかかわらず』と言うのはふさわしくない」「『ご多忙』を使うのを嫌う人がいる」という調子で、「ご多忙」を使うべきでないという見解が掲載されていた。

   また2017年発行のマナー本にも「『多忙』という字を嫌う人もいます」という項目があり、字のつくりを気にする得意先や上司もいるため、「ご多用」であれば問題ないとの記述があった。

   本来の「忙」の字の成り立ちを調べると、この字は形声文字で「亡」のつくりは発音を表しているだけである。ゆえに「忙」と「亡」は音読みが同じ。また元は「ぼんやりしている」の意味があり、「いそがしい」の意味になったのは8世紀頃からだという(『常用字解』白川静著、平凡社、2003)。「忙」の成り立ちに、前述の俗説はあまり関係は無さそうだ。

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