関電の役員らは金品を押し付けられた被害者だった、と関電側は言いたいの?――
関西電力の役員らが、福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)から計3億円を超える金品を受け取っていた問題で岩根茂樹社長らが開いた会見内容に対し、こんな違和感がメディアやネットで相次いでいる。
「担当者は我慢を重ねて対応してきた」と主張
「お前の家にダンプを突っ込ませる」「お前なんかいつでも飛ばせる」「娘が可愛くないのか?」――高浜原発の地元で「かなりの影響力」(八木誠・関電会長)を持っていた森山氏から、担当者らは時にこんな脅し文句を聞かされたそうだ。金品を返そうとしても、「顔をつぶすのか」と請け合ってもらえなかった、とも関電側は2019年10月2日の会見で主張した。「担当者は我慢を重ねて対応してきた」とも訴えた。
こうした関電側の言い分に対し、会見中でも記者から「関電は被害者のような立場を取っているが...」「あたかも森山氏という特異なキャラクターを持った人によって、関電が被害を被ったというような印象を受けます」といった違和感や感想が寄せられた。
ツイッターでも、
「関電、被害者づらは見苦しい」
「被害者面するんじゃないよ。金銀ざくざくもらっておきながら」
といった声が相次いだ。
会見翌日の新聞(ウェブ版)や情報番組を見ても、
「関電 まるで被害者 『元助役怖い』『我慢重ね対応』延々30分」(東京新聞、見出し)
「関電は『各個人が我慢を重ねて対応してきた』とまるで森山氏から金品攻勢を受けた被害者であるかのように説明した」(毎日新聞、社説本文)
などと、批判的な文脈で取り上げられた。「ひるおび!」(TBS系)では、鎌田靖・元NHK解説副委員長が、
「全部この人(編注:森山氏)が悪いかのようで、あたかも関電の役員らは被害者であるかのように見えるのは、絶対違うんじゃないか」
と指摘していた。
社内報告書に「同情さえ禁じ得ない」
関電会見から「被害者」意識がにじんだのは偶然ではなさそうだ。実際、関電が2日に公表した、この件に関する社内報告書(18年9月11日付、<社内>調査委員会作成)にある、調査委員会の委員長、小林敬弁護士による「所感」(A4版で2ページ分弱)では、担当者らの対応について、
「原発の再稼働への悪影響などを恐れる事情もあって、森山氏との関係断絶などの強い態度に出ることに躊躇を覚え、(略)不本意な形ではあっても誠実な対応を続けた挙げ句(略)」
などとして、
「担当者らの境遇には、むしろ同情さえ禁じ得ない」
と評している。
こうした「関電側は被害者」であるかのような構図については、違和感だけでなく、「関電側の主張は本当なのか」といった疑念も持たれている。先に紹介した東京新聞記事では、会見で記者から「死人に口なしのような印象を受ける」と質問が出たことに触れた箇所で、中見出しに「死人に口なし?」と取っていた。「ひるおび!」のMC恵俊彰氏も、もう一方の当事者である森山氏が故人であるとして、「(関電側言い分が)本当にそうなの?という目線も持っていなくて良いのか」と疑問を呈していた。「とくダネ!」(フジテレビ系)のMC小倉智昭氏はさらに踏み込み、「これ、亡くなった森山さんのご遺族がこの(編注:関電会見の)ニュース見ていて、どういう思いでご覧になったのかな。名誉棄損で訴えてやろうって思ったかも分からないですよ」と指摘していた。
「関電側は被害者」構図に違和感が出てくる背景には、多額の金品を受け取っていた(関電側説明では「預かっていた」)ことに対し、「(略)刑事罰は問えるのか」(産経ニュース、2日ウェブ版)といった記事が相次ぐ程の問題をはらんでいる点がある。日経新聞やテレビ朝日なども同種記事を配信している。もっとも、内容は概ね、会社法の収賄罪や特別背任罪に当たる可能性も考えられるが、今回は、重要な関係者が死亡していることもあり、「刑事責任追及は困難か」(日経2日記事)といった見方が示されている。
関電は、この問題について新たな調査委員会を設置することを10月2日に発表した。「会社から独立した」弁護士のみから構成され、類似事案の調査などを行う。報告書を年末までにまとめる方針という。