国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」での一部展示中止を受けて、文化庁が 補助金7800万円を不交付と決定したが、有識者の審査委員会には意見を聴いていなかったことが分かった。
このことに反発して一部委員が文化庁に辞意を伝えており、補助金問題の混乱がなおも続いている。関係者を含む有志がネット上で、文化庁へ抗議する署名を始めている。
「これでは、審査委員会は不要ということになる」
補助金は、外国人観光客の誘致などを進める「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業」の1つとして、2019年4月に採択された。このときには、有識者6人でつくる審査委員会の審査をクリアしている。
しかし、文化庁は、9月26日になって、脅迫などの危険を知りながら申告しなかったなどして、補助金を不交付とした。これに対し、芸術祭実行委会長の大村秀章・愛知県知事は、合理的な理由がないとして、訴訟を起こす構えだ。
そして、今回は、不交付決定に当たって、審査委員会への意見聴取を行っていなかったことが新たに分かった。審査委員を務めた鳥取大の野田邦弘・特命教授が10月3日までに、J-CASTニュースの取材に対し明らかにした。
「審査には2段階あり、審査委員会も関わるのが1段階となる内容の審査で、2段階は事務的審査があります。文化庁に聞いたところ、今回は、後者に該当するので審査委員会には聴かなかったということでした。しかし、事務的な話だとは思いませんので、説明になっていないと思います」
野田教授は、「これでは、審査委員会は不要ということになる」と考え、文化庁に辞意を伝えた。文化庁からの慰留はなかったという。
補助金不交付の発表を受けて、審査委員が文化庁に経緯を説明してほしいと言うと、文化庁からは、説明したいというメールが9月29日になって送られてきた。その後は、個別に審査委員への説明が行われているという。
「公正決定原則から不適切」だとして、ネットで署名活動も
補助金不交付を受けて、審査委員を含む文化行政専門家の有志グループが9月30日、「あいちトリエンナーレ2019不交付決定に対する声明」サイトを開設して、意見聴取しなかったことなどに抗議する署名活動を始めた。野田教授も活動に参加している。
長津結一郎・九州大大学院助教と行政書士の作田知樹さんが活動の発案者で、声明では、文化庁内部ですべての審査を行い、不交付のような重大決定で意見聴取しなかったことは「異例中の異例」だと指摘した。「すべての公的資金助成の基本原則であり外部審査員の存在意義でもある『公正決定原則』に照らして不適切」だとして、「これまで公的資金助成の適切な運営に尽力してきた外部審査従事者、ひいては広く文化行政や公的資金助成への国民の信頼を失墜させる懸念があります」と訴えた。そのうえで、文化庁に対し、今回の経緯説明や有識者による検証などを求めている。
発案者の1人の作田知樹さんは10月2日、取材に次のように話した。
「採択したものを変えるときは、意見聴取は当たり前だと思います。そうした内規などはありませんが、補助金の不交付を恣意的に決められる恐れがあり、公正さを確保できないと思います。そもそも、審査委員は何のためにいるのかということにもなり、文化行政の事務が成り立たなくなってしまいます」
共同署名者には、審査委員が複数いるとし、署名者と賛同者は、2日現在で1000人以上に達したという。
萩生田文科相「方針を変える予定はない」
複数の報道によると、文化庁は不交付決定に当たり、内部協議のため必要ないとして議事録を作成していなかったという。
萩生田光一文科相は10月1日、閣議後の会見で、すでに補助金の不交付を決めており、展示が再開されたとしても「方針を変える予定はない」と述べた。
J-CASTニュースでは、文化庁の地域文化創生本部に2日から何度も取材を申し込んだが、担当の事務局長が多忙だとして、3日昼現在までに話は聞けなかった。
なお、ネット上では、審査委員への意見聴取がなかったことなどについて、様々な声が書き込まれている。
「行政の行為としてちょっと信じられない」「それはもう正式な審査ではないのでは」といった声もあるが、「申請手続きの不備なら内部だけで充分」「補助金不支給は妥当な判断です」と文化庁の対応を支持する向きも多い。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)