国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」での展示中止問題で、クレームなどの音声を愛知県の検証委員会が県のサイト上で公開し、その後削除したことが分かった。
クレームをしたという人が音声公開にツイッター上で抗議していたが、県側は、削除はこの抗議とは無関係と説明している。
「そんなこと分からんのか、バカ野郎!」などと罵倒
3日間で中止になった芸術祭の「表現の不自由展・その後」について審議した「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」(座長・山梨俊夫国立国際美術館長)は、2019年9月17日の第2回会議で、「電凸」(電話で問い合わせる行為)と呼ばれるクレームなどの音声を一部流した。会議のユーチューブ動画は、県のサイトにもアップされた。
そして、26日ごろになって、「あいちトリエンナーレ2019に寄せられたご意見等」として、7つの音声が個別にアップされた。
これに対し、県などにクレームを入れたという男性が28日、自らの抗議電話の一部音声が許可なく県のサイトで公開されたとして、ツイッターで異議を申し立てた。
この音声を聞くと、慰安婦を象徴する「平和の少女像」について、「これからも展示するつもりか?」と問いただし、芸術祭実行委の担当者が検討中だと答えると、「相当無神経な奴だ、お前たちは!」「そんなこと分からんのか、バカ野郎!」などと芸術祭実行委の担当者を罵倒している様子が分かる。
電話は、不自由展がまだ開催中だった8月2日ごろにかけたという。男性は、「かなり荒い言葉遣い」とツイッターで認め、反省しているとしたうえで、「職員ののらりくらりな対応にも一因」があったと主張した。ツイッターは、30日夕現在は非公開になっている。
男性は30日、J-CASTニュースの取材に対し、少女像のことしか録音は公開されなかったとし、「私は昭和天皇の御真影を燃やしている事を主に抗議しました」「音声公開は、処理を施せば良いと思いますが、公開の告知がなかった事と、フルバージョンを公開しなかった事は、問題だと考えます」と答えた。
「県としては、検証委の指示で作業しただけ」
音声公開については、ネット上で様々な意見が寄せられている。
クレームについて、「聞くに堪えない」「電話受けた人は怖かったでしょうね」といった声が出る一方、音声公開に対しては、「これは行政のやることではない」「人権侵害じゃないですか?」「非があったなら、公式に謝罪すべき」との意見もあった。
芸術祭実行委会長の大村秀章知事は、公式ツイッターで9月28日、許可なく音声公開した理由を聞かれ、「電凸攻撃です」と説明した。電話は、場合によっては「威力業務妨害」に当たるとし、音声公開について、「弁護士に相談して、法律的にも、適切に対応してます」とした。
愛知県の県民総務課などは30日、検証委会議で音声を流した理由について、「苦情の殺到で安全が脅かされるかどうかを検証するためだった」と取材に答えた。検証委からの指示で音声も個別にアップしたといい、第3回会議で検証を終えたため、「その役割を終えた」と判断して、30日になって第2回会議の動画や個別の音声を削除したことを明らかにした。
ツイッター上での抗議については、「音声の本人と確認できませんし、直接県に言ってきたとも聞いていないです」とし、音声などの削除は、抗議とは関係ないと説明した。7つの音声については、業務妨害などで警察に相談しているケースはないという。
音声を公開することの是非については、「県としては、指示で作業しただけですので、申し上げることはありません」としている。
なお、不自由展側は30日、10月6~8日に同展を再開する方向で芸術祭実行委と合意したと明らかにしたと報じられた。
弁護士「違法の可能性高くないが、公開は軽率だ」
愛知県の検証委による音声公開について、深澤諭史弁護士は、「十分に先例がなく難しいですが、違法であるとされる可能性は高くはないと考えます」と取材に答えた。
その理由としては、次のことを挙げている。
「一般に、人格権といって、名誉やプライバシーなどを始めとする人格的利益は法的に保護されています。これを侵害すると、民法709条、710条により、賠償義務が生じます。肉声がこれに当たるかは難しい問題ですが、諸般の事情を考慮するべきです。本件では、感情的になっている声ですので、みだりに公にされない権利ないし利益はありそうです。一方で、個人を直ちに特定することはできません。また、かなり乱暴な言葉遣いと聞いておりますし、事案が社会の正当な関心事でもあります。そうなると、違法になる可能性は高くはないといえます」
ただ、深澤弁護士は、こうも言う。
「もっとも、発言者は音声の公開に同意はないでしょうし、違法とされる可能性を完全に否定することはできません。また、そもそも検証のために公開とのことでありますが、検証のために公にする必要まではなかったのではないかと思います。そういう意味で、公開という行為自体に対しては、軽率との誹りは免れないと思います」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)