公立学校の教員について、1年単位の変形労働時間制の導入が政府で検討されており、法改正が進んだ場合2021年春からの導入も可能となる。
しかしこれに対し、現職の教員や教育学者らが導入効果に疑問を表明し、署名サイト「change.org」では撤回を求める署名が約1週間で数万筆集まっている。現場の声と文科省の見解の双方を取材した。
長期休暇でも仕事量は変わらない、と考えている
公立学校の教員に導入が検討されている1年単位の変形労働時間制は、学期中の勤務時間を長くする一方、夏休み期間の学校での1日の勤務時間を短くするなどして、特に学校の長期休暇期間に勤務を柔軟にし、休みを取りやすくすることが狙いの一つ。
しかし、署名サイト「change.org」で9月16日に反対署名集めが始まり、9月24日夕現在で2万9000筆以上が集まっている。呼びかけ人の一人、斉藤ひでみさん(仮名)はJ-CASTニュースの24日の取材に対し、自身は現職高校教員だと答え、変形労働時間制を導入しても全く解決にはつながらないと指摘した。そもそも変形労働時間制の導入は教員の業務時間縮減よりも、休みが取りやすいというイメージを導入し、人手不足に悩む教員の志望者を増やす狙いもあると斉藤さんはみている。
斉藤さんによれば、変形労働時間制を導入されて直ちに仕事が減るわけではなく、むしろ1日の勤務時間が長くなり終業時間も遅くなる分、学期中の会議などが後ろ倒しされて学期中の勤務時間も伸び、長期休暇でも仕事量は変わらないと考えているという。夏休み期間中も教員は2学期の行事準備・課題テストの準備・生徒進学のための調査書作成・そして部活動指導など多岐にわたる。休みを取りやすくするには、変形労働時間制よりも閉庁期間の導入が合理的だと考えているという。
閉庁期間とは学校が部活動・行事などの業務をすべてやめ、保護者からの問い合わせにも答えない期間である。導入の有無や日数は自治体によりばらつきがあるが、完全に行事を休止するためにこの期間は休みに充ててもよいし、溜まった仕事を消化してもよいので、柔軟に休みが取れる。実際に岐阜市の事例では16日間の閉庁期間を導入し、95%以上の教員が支持した事例も報じられている。
部活動の指導などについても、教員の権限が曖昧にされたまま現場に丸投げされていると斉藤さんは指摘する。教員の働き方改革については政府も取り組んでおり、2019年1月の中央教育審議会(中教審)答申では部活動について、「学校の業務であるものの、必ずしも教師が担わなければならない業務ではない」としているが、部活動を指導するのが教師の業務ではないならば、代わりに誰が行うのかはっきりと規定すべきだと斉藤さんは言う。
「総合的な取り組みで教員の働き方改革を進めている」
現場の教員がこのように懸念を示すのに対し、文科省はどのような取り組みを考えているか。文科省初等中等教育局はJ-CASTニュースの取材に対し、変形労働時間制だけでは教員の仕事が減らないとしつつ、もとより総合的な取り組みで教員の働き方改革を進めていると答えた。
そもそも変形労働時間制の議論は、法改正であくまで「導入を可能にする」にとどまり、実際に変形労働時間制を導入するか否かは自治体にゆだねられる。その上で、勤務時間の管理や役割分担の明確化で教員の勤務形態を把握し、調整を図っていくと答えている。19年1月の中教審の教員の働き方改革に関する答申も変形労働時間制の検討にとどまらず、タイムカード等を活用した勤務時間管理の徹底、学校と教師が担う業務の明確化・適正化・環境整備などを総合的に推進すべきとの提言を行った。 とりわけ学校と教師が担うべき業務については地域ボランティア等が担うべき業務とし、部活動についても前述の通り必ずしも教師が担わなければならない業務ではなく、部活動指導員が担当してもよいと答えている。
先の署名サイトでの反対署名は、10月3日までの分を一旦取りまとめて提出する予定としている。