ラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会が、いよいよ迫ってきた。アジア初の開催に、20か国が参戦。北は札幌市や岩手県釜石市から、南は福岡市、大分市、熊本市まで、12のスタジアムが、もうすぐ歓声に包まれる。
参加チーム(国)も続々来日。それぞれの国内のキャンプ地で、選手が汗をかいている。そうしたなか、福島県にはW杯出場8回の強豪・アルゼンチン代表がやって来た。愛称「ロス・プーマス」。世界ランキング11位の屈強な男たちは、2019年9月10日に来日。選手やスタッフなど、約50人が福島に入った。
楢葉町にあるJヴィレッジではこの8月、歓迎の気持ちを込めて「ラグビー アルゼンチン代表応援フェア」を催し、応援ムードを盛り上げた。
アルゼンチン代表がやって来た!
福島県がアルゼンチン代表を迎えるまでの道のりは平坦でなかった。ラクビーW杯に出場する代表チームの招致活動に、福島県は約2年前から取り組んでいて、10か国以上にアプローチした。その中から、アルゼンチン代表が福島を選んでくれたのだが、その決め手の一つに2002年のサッカーW杯日韓大会があった。
もともとナショナルトレーニングセンターの機能を有するJヴィレッジ。その施設のよさは大きな魅力だ。ピッチと宿泊施設が同じ敷地内にあり、さらにはプールやフィットネス施設が完備。1か所ですべて完結できるのは、キャンプ地としては大きな利点になる。
駐日アルゼンチン共和国大使館第一秘書のマルセラ・バローネ氏は、
「Jヴィレッジの印象はとても満足のいくものでした。アルゼンチンのラグビーチームが最大限の能力と結果が出せるよう、最新のスポーツ設備が整っていました。 2002年の日韓W杯でアルゼンチンのサッカーナショナルチームが滞在したので、ラグビーチームのスタッフは、Jヴィレッジはアスリートの要求や彼らのニーズに応えられると考えました。選択は自然な流れでした」
と振り返る。
合宿地はラグビー代表チームが決めるが、アルゼンチン大使館が後押ししてくれたようだ。地元・福島の人たちにとっても、サッカーW杯日韓大会のアルゼンチンの印象は、強烈に残っている。
「みなさん、忘れていませんよ。Jヴィレッジといえば、アルゼンチンというようなイメージはかなり浸透しています」
と、Jヴィレッジ事業運営部の高名祐介さんは言う。
「世界のトップアスリートを生で見られる機会はなかなかないでしょう。こうした機会に、間近に見て、感じてもらえれば、ラグビーをやっていない人でも興味を持つきっかけになると思います」
と、高名さん。
地元の人たちも「アルゼンチンが、また来てくれる」と、ワクワクしている。
「福島の人たちにとって、サッカーW杯日韓大会のアルゼンチン代表の印象は強烈です」と話すJヴィレッジの高名祐介さん
川俣町で40年超続くフォルクローレの祭り
アルゼンチン代表チームに感謝の意を表したい、もっとアルゼンチンを知り、交流を深めたいと、Jヴィレッジで企画されたのが8月の「ラグビー アルゼンチン代表応援フェア」だ。「アルゼンチンを満喫できる」イベントで、目玉の南米音楽「フォルクローレ」を聞きながら、アルゼンチン料理を楽しむ。
フォルクローレを演奏するのは、川俣町の人たち。じつは川俣町とアルゼンチンはフォルクローレを通じて長年交流を深めてきた。1975年から毎年10月、「コスキン・エン・ハポン」というフォルクローレの音楽祭を開催。アルゼンチン・コルドバ州の『コスキンフェスティバル』にちなんだ祭りで、今年で45回を数える。
バローネ氏は、
「本場のフェスティバルは、ラテンアメリカのアマチュア民族音楽のバンドで成り立っています。アルゼンチンの一流のアーティストたちが毎年『コスキン・エン・ハポン』のために川俣町を訪れますが、日韓W杯でアルゼンチンのナショナルサッカーチームがJヴィレッジに滞在したことで、これらの交流がさらに強まりました」
と話す。
川俣町では、民族楽器の「ケーナ」(竹製の縦笛)を、小学4年生全員に無償配布するほどフォルクローレが浸透しており、「コスキン・エン・ハポン」のステージには何百というアマチュアグループや演奏家が登場する。Jヴィレッジのイベントでは、プロ並みの腕前を誇る「ラパス」や、町の子どもたちのグループ「川俣・デ・アミーゴ」が演奏し、町をあげて盛り上がる音楽祭のにぎわいを、そのまま持ち込んだ。
福島県川俣町では小学4年生になると「ケーナ」を配布する
(Jヴィレッジで演奏する子どもたちのグループ「川俣・デ・アミーゴ」)
バローネ氏「福島の人々の回復力に感動しています」
アルゼンチンは福島の復興を支援している(Jヴィレッジで)
ラグビー アルゼンチン代表が福島を合宿地に選んだ理由の一つに、東日本大震災からの復興支援がある。
バローネ氏は、
「経済再生に向けた福島県民と県職員の多大な努力にはとても心が打たれました。私たちは、福島の人々の回復力に感動しています」
と語る。
東日本大震災と福島第一原発事故からの「復興のシンボル」であるJヴィレッジは、原発の事故処理作業の拠点として長く休業を余儀なくされたが、この4月にグランドオープンした。サッカーのみならずラグビー、最近はラクロスやアルティメットの全国大会が開かれるほど、活気づいてきた。
「一人でも多くの人たちに福島に来ていただいて、復興が少しずつでも進んでいること、福島の現状を正しく理解してもらうことが広がっていけばいいと思っています」
と、高名さん。
Jヴィレッジが福島の地域活性化に貢献するとともに、そのけん引役でありたいと願う。
10月5日、Jヴィレッジでは福島県主催のラグビーW杯パブリックビューイングを予定している。アルゼンチン対イングランドと、日本対サモアの2試合を観戦。
「ラグビー通の人からすると、アルゼンチンの対戦カードの中でイングランド戦が一番おもしろいんじゃないかと。かなり長丁場になりますが、アルゼンチンと日本。両方、応援できます。きっと盛り上がりますよ」
と、笑顔をみせた。