「大成功」MGCだが...次回は「元の木阿弥」懸念も マラソン代表、一発選考の背景と課題

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   2020年東京五輪男女マラソン選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」が2019年9月15日、東京・明治神宮外苑発着42.195キロで行われた。男子は中村匠吾(27)=富士通=が優勝し、服部勇馬(25)=トヨタ自動車=が2位に入った。女子は前田穂南(23)=天満屋=が優勝し、鈴木亜由子(27)=日本郵政グループ=が2位となり、男女それぞれ上位2選手が東京五輪代表に内定した。

   「日本マラソンの復活」を掲げ、東京五輪でのメダル獲得を目的として開催されたMGC。事実上の一発勝負の選考会となったわけだが、国内でこのような形でマラソンの選考会が行われるのは初めての試みで、当初は関係者の間で一発選考に反対の声もあったという。だが、ふたを開けて見ればどうだろう。一般のファンにも分かり易い明解な選考法は大きな支持を受けたといえるだろう。

  • 男子は中村匠吾が優勝し、2位の服部勇馬とともに代表選出を決めた(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
    男子は中村匠吾が優勝し、2位の服部勇馬とともに代表選出を決めた(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
  • 男子は中村匠吾が優勝し、2位の服部勇馬とともに代表選出を決めた(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

一発勝負だからこそ生まれた数々のドラマ

   MGCは、2017年夏から「予選」が開始された日本陸上連盟の一大プロジェクトで、2年以上の年月を経て本戦が開催された。日本陸連が、五輪のマラソン代表決定を巡る過去のゴタゴタを反省、改良すべくプロジェクトにようやく着手したものだが、結果的には大成功した。タイムにかかわらず男女の上位2選手に内定を出し、残り1枠に対してもはっきりとした条件が付けられ、見るものを納得させる選考会だった。

   出場した選手もまた、明確な目標を持って走ることが出来た。だからこそ、普段のレースでは見られない数々のドラマがひとつのレースで生み出された。スタートと同時に先行逃げ切りを図った設楽悠太(27)=ホンダ=。その設楽を集団が吸収し逆転するシーンや、ゴール直前まで繰り広げられた中村、服部、大迫傑(28)=ナイキ=によるデッドヒート。観戦した国民は、マラソンの醍醐味を存分に味わったことだろう。

   MGCのPR事務局の発表によると、レース当日は52万5000人が沿道で声援を送ったという。銀座や浅草など都内きっての繁華街を巡るコースとはいえ、この数字は国民の高い関心を示すのに十分だろう。また当日、男子のレースを生中継したTBSの視聴率は平均16.4%、女子のレースを中継したNHKは平均13.5%(いずれもビデオリサーチ日報調べ)を記録した。3連休中日の早朝スタートということを考慮すれば、高い数字といっていいだろう。

   大会の規定通りに男女それぞれ上位2選手に内定が出たことで、ネット上では日本陸連を高く評価する声が続出しており、「納得のいくレースだった」、「すっきりした」などの声が上がっている。その多くは今後もMGCの継続を望んでいるが、一方で日本陸連の尾県貢専務理事は、MGCの継続に関して慎重な姿勢を崩さない。

「そのままの形でできるとは...」専務理事の発言の意味

   透明度の高い選考レースになったことに関して尾県専務理事は「高く評価できる」とした一方で、MGCの継続については「そのままの形でできるとは思えないが、この要素をどう継承していくか検討していきたい」と話すにとどまった。尾県専務理事の言葉をどう受け取るかにもよるが、今回のような1レースでの一発選考会の開催は難しいということだろう。

   日本マラソン史上初の試みとなった今回のMGCは、スポンサーやメディアの「配慮」があって開催にこぎつけた。これまで複数のレースが選考の対象となってきたが、今回はMGCに一本化された。「東京五輪でのメダル獲得」を掲げる日本陸連の意向を各大会のスポンサーやテレビ局が尊重したもので、本番とほぼ同じコースを選考レースとすることで選手が得る多くの利点を考慮したものでもある。

   今回のMGCはあくまでも五輪の自国開催に伴うもので、尾県専務理事が話すように、次回の2024年パリ五輪の代表選考が、今回の形式を維持したままの選考会となるかは不透明だ。五輪本番のレース結果が出る以前に、今回のMGCを「成功」と判断するのは早計かもしれないが、選考方法において異論を唱える者は少ないだろう。日本陸連初の試みは一応の結果を出したものの、次回が一発選考でなければ元の木阿弥となってしまう。マラソンファンが求めているのは、誰もが分かる選考であり、日本陸連に求められるのは、これ以上「悲劇」を繰り返さないことである。

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