決済手段だけではなく...先進事例は
地域通貨はプラットフォームと予算さえあれば、導入に至るハードルは高くない。問題は定着させられるかだ。
専修大学経済学部の泉留維教授らが行った研究では、地域通貨が発行後5年以上継続する割合は4割弱。過半数がコスト増や利用者・導入店の伸び悩みにより、淘汰されている。
地域電子通貨に置き換えても、課題は似通る。無料配布するタイプは原資の確保が必要で持続性が課題となる一方、法定通貨と互換性があり販売流通させるタイプは、経済合理性の低さから、キャッシュレス決済市場で敗れる可能性がある。いずれにしろ、地域通貨を見せ物に終わらせずに、戦略性をもって流通させられるかが重要となる。
模範はない訳ではない。飛騨信用組合(岐阜県高山市)の「さるぼぼコイン」は先進事例に該当する。
さるぼぼコインは2017年12月に商用化を開始し、現在、加盟店は1000店舗、ユーザーは8000人を超えるなど、地域の決済手段として定着しつつある。
それでも、キャッシュレス市場の競争激化に対する危機感があり、新たな利用拡大策として飛騨信組は2019年8月1日、さるぼぼコインのアプリ上で飛騨市の災害関連情報を発信するサービスを開始。アプリのプッシュ通知機能を市に提供し、市側がアプリを災害やクマ出没などの情報発信に活用できるようにした。決済手段に終始した地域電子通貨が多いなか、さるぼぼコインが一歩抜け出した格好だ。
地域通貨は、経済活動の規模拡大を希求することだけが目的ではない。さるぼぼコインのように、決済手段としての枠を抜け出し、ユーザーからのプレファレンス(相対的なブランド好意度)をいかに集められるかが打開策となりそうだ。
(ライター 小村海)