「事件の犯人は〇〇!経歴は?前科は?」「〇〇について調べてみました!」「調べましたが、わかりませんでした」「いかがでしたか?」――。
時事・芸能ネタを中心に取り上げ、ページビュー(PV)を稼ぐ「トレンドブログ(トレンドアフィリエイト)」。インターネット利用者の関心に素早く応える利点がある一方、デマ拡散や誹謗中傷の温床になっているとの指摘もある。
こうしたトレンドブログは、どのようにして作られているのか。そして、その問題意識は――。運営者に聞いた。
「犯人扱い」された無関係の女性
著名人のうわさ話や社会的関心の高い事件を中心に扱い、PV数を増やして広告収入を得ることを主な目的とする「トレンドブログ」。
常磐自動車道で男性会社員があおり運転を受けた後に殴られた事件では、無関係の女性がネット上で"犯人視"され、トレンドブログが拡散の起点となった。
「人違い」被害を受けた女性の代理人弁護士は2019年8月23日の会見で、対象のトレンドブログは「自身の利益のために、不適切な言葉を用いて情報を積極的に拡散した人物と同等かそれ以上の拡散力をもって情報を広める点で、極めて重いと考えます」とし、法的責任を問う構えだ。
また、ネットで企業や個人が仕事を不特定多数に発注できるクラウドソーシングサイトで、有名スポーツ選手を誹謗中傷するようなブログ記事の作成募集があり、批判を集めた例もあった(詳細:「『羽生選手』『キモすぎ』で記事書いて」 氾濫するトレンドブログ求人、仲介業者も対応強化へ)
J-CASTニュースでは、トレンドブログの運営者に対面取材を申し込み、関東在住の女性Aさん(27)に話を聞いた。
60万支払い「運営者」デビュー
大学卒業後、公務員として働いていたAさん。結婚を機に専業主婦となり、自宅でできる仕事として目を付けたのがトレンドブログだった。クラウドソーシングサイトなどでライターを募り、組織的に運営するブログもあるが、Aさんは一人でほぼ毎日記事を書いている。
「なんの仕事をしようかと考えていた時に、私の知り合いがやっていて、旦那が転勤族ということもあり、ひとつの仕事を家でできればと思って始めたのがトレンドブログでした」
ブログは19年4月に開設し、運営のノウハウは主婦などをターゲットとした有料会員制コミュニティー、いわゆるオンラインサロンで学んだという。
「お友達がブログを教えてくれるオンラインサロンに入っていて、その子がそこで学んだというので、私も先生を見つけたいと思い、今サロンに入っているんです。そこの先生のマニュアルみたいなものがあってそれに沿ってやっています」
「私のところは年間30万と60万のコースがあり、私は60万のコースに入ったんですが、60万の方はブログに限らず安定して稼げるようになったらその先のビジネスもサポートしてくれるので60万のコースにしました。もう一つの方はブログだけでやっていくみたいな感じです」
「ジャニーズ」記事でPV増
ブログの開設当初、アクセスの大半はツイッターで、多くの流入が見込める検索エンジンからはほぼなく、苦戦したという。しかし、1本の記事で潮目が変わった。
「私がSEO(サイトが検索上位に表示されるようにする手法)に強くなったのは、元SMAPの3人が話題になった時に、ジャニーズに圧力かけられたアーティストって誰だっけ?というのを記事にしたんです。それでアクセスが集まり強くなりました。ひとつアクセスが集まる記事があると強くなれるのでみんな集まりやすいところにいくんですよ」
直近の月間PVは26万ほどで、6万円の収入を得た。サロンメンバーの中でこの額は少ないほうで、「みんな10万というのがひとつの目標です。10万は毎日頑張って書いていればいくみたいなところで、だいたいみんな10万、その次で15万。20万で2か月くらい安定してアクセスが来ていれば、トレンドを辞めて(扱うジャンルを絞った)特化型ブログに移る人が多いのかなという気がします」
情報収集の方法を聞くと、「いろんな人がいますが、基本的にはヤフーのリアルタイム検索アプリで上位に入っているキーワードは常にチェックしていて、そこで注目を集めそうだなというのを拾ってツイッターの検索にかけ、どのようなツイートがあるか、どのような疑問を持っているのかという感じでキーワードを決めていきます。あとはヤフーニュースのトピックとかそんな感じですかね。ツイッターのトレンドもけっこう多いです」
収益以外にもやりがい
記事制作のコツは、「昔のトレンドブログは文字数の目安が1000字とかだったんですけど、(その文字数だと)今はあまり検索の上に出てこないよと言われているので、ある程度文字数を充実させた方がいいかなと思っています。私は2~4時間かけて5000字になることもあります。他のブログと比べたらかなりの時間をかけちゃっています」
「検索順位争いは激しいので、タイトルの前半に狙いたいキーワードを入れるとか、ほかの記事と並んだ時に目を引くような言い回しを考えたりと工夫しています」
収益以外にも、やりがいを感じる場面がある。
「記事をツイッターにあげるときに私なりに考えていることと一緒に上げるんですよね。いいねやリツイートやリプが沢山ついたり、ファンの方のDMですごくいい記事ですねと言ってもらったり、拡散していただけたりすると嬉しいです。自分の書いた記事がネットニュースの記事と似ているときも需要が合ってたと嬉しくなります(笑)」
Aさんは、ゆくゆくは自分の得意分野に特化したブログで生計を立てたいという。
「トレンドブログはニーズがあるので、自分が書いた記事でどれくらいの需要があってどのような反応だったからアクセスが来たのかを勉強するためにすごくいいと先生から教えられました。特化だったりすると検索する人がすごく少ないじゃないですか。そうすると自分の書いた記事がいいのか悪いのかわからないまま時間が過ぎてしまいます。早くブログの技術を身に着けるためにはトレンドといわれているんですよ。だからトレンドブログで収益が出てくれば、需要にあった記事を書けるようになってきたのかなと思うのでそうしたら特化に移りたいです」
あおりデマ拡散、どう感じた?
情報の信頼性には、どのように向き合っているのか。
Aさんは、サロンで起きた「事件」をきっかけに、意識の変化があったという。
「サロンでダントツに収益が良かった人が、京アニ事件の時に犯人のあれこれについて書いていたんです。ですが、それでグーグルの広告が載せられなくなって、そういうところのセーブが効かなくなることのある世界だなと思いました。その後、人を傷つけるようなことだったり、未確定なことを出すっていうのは良くないんだなというのが私のサロンには広がりました」
また、「モラル的な部分で学んだのが『●●』(バラエティ番組、伏せ字は編集部)なんです。見ていた女の子の印象が強くて、うざかったんです。それをタイトルにして出したときすごく心が痛くて嫌だったんですけど、ブログ仲間が『それは当たるから出しな』って。そのまま掲載し続けたときに心が痛かったので、それは失敗したかなと思います」
最後に、常磐道あおり運転事件でのデマ拡散について聞いた。
Aさんのブログでは「デマ」だと断定した上で、犯人扱いされた女性の実名を載せた。名前を出すか迷ったというが、「私の中でもう少し収益を出したいなという葛藤があり、名前を入れたバージョンで先生にも添削を出して、聞いた時には大丈夫でしょうって感じだった」ため、掲載に踏み切った。現在は被害女性への配慮から非公開にしている。
「私の記事がもしそうなった(法的責任を問われた)時は傷つけたことに変わりはないので覚悟は持たないといけないなと思います。どういう形にしろ一般の方の個人情報を書いたのだから。そういうことをその女性の勇気ある行動で気づける方がいっぱいいたと思うので、こういう事件は大事なのかなと。その人には申し訳ないんですが。そういうのがないと無くなっていかないかもしれないですね」
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)