漫画の海賊版サービス「Manga Rock」が批判を集め、閉鎖に追い込まれた問題で、運営会社は2019年9月5日、出版社などとライセンス契約を結んだ上で"再始動"すると発表した。
現在、日本の出版社とも交渉をしているというが、業界関係者は「公式版を盗んでお金儲けをしていた組織なので信用性はゼロ」と厳しく非難する。
NYタイムズも紹介
Manga Rockは2010年に、ベトナムの企業「Not A Basement Studio」が立ち上げた。日本などの漫画を英訳して違法にアップロードし、ウェブサイトとスマートフォン向けアプリで展開する。
収益源は、ネット広告とサブスクリプション(定額制)サービス。米新聞大手ニューヨーク・タイムズの14年3月付記事(電子版)では、「5万作品以上を揃える」人気の漫画アプリとして紹介した。
しかし、海外向け同人誌出版社「イロ鳥コミックス」の高橋温(おん)社長が2019年8月27日、ツイッターで問題提起すると、日本国内外のネットユーザーから批判が殺到。運営会社は9月5日、今月中にサービスを終了すると公式サイトで発表した。ここまでの経緯は、J-CASTニュースでも既報だ。 (詳報:海賊版サイト「Manga Rock」、閉鎖へ 有料配信で批判相次ぎ「漫画家と出版社に心よりお詫び」)
同社は「私たちのようなアグリゲーター(収集)サイトが漫画業界やクリエイターに与えたマイナスの影響についての言い訳はありません。多大なご迷惑をおかけして、深くお詫び申し上げます」と謝罪する。
「私たちの過ちを正す」
同時に、「私たちの過ちを正すため、まったく新しいプラットフォームを作ろうと考えております」と、新サービス「MR COMICS」を立ち上げる構想を明かした。
発表によれば、海外では「スキャンレーション」が横行しており、漫画をスキャンして英訳化したものを公開するサイトが多数あるという。
そこで、出版社や漫画家自身が作品を公開し、対価を得られるサイト「MR COMICS」を作ることで、クリエイターを支援していく。サブスクリプション費など収益の一部を分配するとみられる。
これまで「Manga Rock」で違法配信されていた作品はすべて削除し、代わりにライセンスを取得したものだけを並べる。すでに中国の出版社「Zhiyin Animation」と契約し、その他の権利元とも交渉しているという。運営会社は6日、J-CASTニュースの取材に「現在、日本、韓国、アメリカ、中国など世界中の出版社と漫画家と交渉をしており、好意的な反応を得られています」と答える。
日本独自のプラットフォームの必要性は?
「ダメージーコントロールの一環かなと思います。問題が起きたから必死でダメージを最小限に抑えるという。10年も日本の漫画家さんの作品やビズメディア(小学館の子会社。漫画の翻訳出版を手掛ける)のような公式版を盗んでお金儲けをしていた組織なので、信用性はゼロです」
前述の高橋氏は取材に対し、Manga Rockの運営会社への不快感をあらわにする。
日本の成人向け漫画の英訳版を配信する「FAKKU(ファック)」やアニメ配信サービス「クランチロール」のように、ライセンス契約を結んで"合法化"した海外サイトはあるが、「いずれも需要はあるものの同様のサービスがなかったために、将来は合法化を目指して開設されました。運営費は寄付金や私財などでした。ですが、Manga Rockは最初からお金儲けが狙いで、バックアッププランとして合法化を持ち出したとみられます」(高橋氏)
MR COMICSが支持を集めるには、人気タイトルを多数揃える日本の大手出版社との契約は不可欠だ。だが、高橋氏は「保守的な業界ですし、10年も違法を働いてきた企業と組んだら漫画家さんや読者の反発は強いと思います」と、契約の可能性は低いと見る。その上で、「ベトナムの企業と組まなくても日本企業でやればいい」とも提言する。
日本の出版各社は2011年に、漫画の英訳版を海外向けに配信するサイト「JManga」を共同で開設した。しかし、キラーコンテンツが無いなど課題が多く、1年半弱で撤退した。
「出版社がお互い協力するという気持ちがなかったんです。なんでうちの作品が客寄せとなってほかの出版社が儲かるのかと。加えて、ポイントを購入して漫画を買う形式でしたが、海外ではサブスクプションの方が親和性は高いです。仮にJMangaのバージョン2をやるとしたら、出版社の全てのタイトルを載せて漫画版ネットフリックスを目指すべきです」(高橋氏)
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)