鉄道旅行につきもののアイテムだったのが、時刻表と駅弁だ。紙の時刻表をひもとけば、全国の駅弁情報を見ることもできた。
その時刻表から、駅弁情報が消えるという。「JR時刻表」(交通新聞社発行)2019年9月号では、この号を最後に駅弁情報の掲載を取りやめると発表された。慣れ親しんだ駅弁のマークが消える背景には、情報ツールと食文化の変容があるという。
駅名横の「弁」マークも廃止
全国の鉄道路線のダイヤを収録した時刻表は、「JR時刻表」と「JTB時刻表」(JTBパブリッシング発行)の2種類が毎月発売されている。ページを開くと、各路線の列車の運転時刻が表示される最初のページで、駅弁を販売している駅には「弁」のマークがついていた。ページの下部にも各地の駅で発売される弁当のメニューと価格が表示され、駅弁情報を探す手軽な手段だった。
しかし「JR時刻表」2019年9月号には、
「各駅の駅弁情報は今月号をもって掲載を終了いたします」」
という文言が掲載されていた。本当に掲載を終了してしまうのか、J-CASTニュースが19年8月下旬、交通新聞社の時刻情報事業部に取材すると、確かに
「駅弁掲載終了については、9月号誌面でご案内しております通り事実でございます。 2019年9月号まで掲載となり、次号の10月号にて全情報を削除する予定です」
という回答だった。さらに
「近年、インターネットやSNSの普及に伴い、お客様がいつでも情報を簡単に手に入れられる時代になっており、駅弁を取り巻く環境も大きく様変わりしております。駅売店のコンビニ化や『駅ナカ』の出店などにより、お客様の選択肢も広がりました。このような時代背景を考慮し、やむを得ず掲載を終了する苦渋の判断となりました」
と理由を説明した。駅名の横の「弁」マークも、時刻表欄の下にある駅弁名と値段の表示も、ともに掲載を終了するとのことである。
JTB時刻表は「今後も掲載」
日本の駅弁の歴史は1885(明治18)年にさかのぼる。以後各地で食材を凝らした弁当が作られ、名物として定着していく。コンビニも外食産業も無かった昭和初期にはすでに、駅弁は庶民の旅の欠かせないお供で、当時の時刻表にも「弁」マークで、販売駅がしっかり記載されていた。
しかし現代はコンビニ・駅ナカでも安価に弁当や軽食が買える時代になり、駅弁は相対的に高額で割に合わない食事になりつつあった。また列車の高速化・停車時間の短縮で停車中に駅弁を買うこともできなくなり、かつて駅の風物詩だった駅弁の立ち売りはもはや絶滅危惧種になっている。販売業者の高齢化・経営難で販売を取りやめる駅も少なくなかった。
また厳密には、時刻表に「弁」マークが表示される駅は、社団法人・日本鉄道構内営業中央会に加盟する駅弁業者が販売している駅に限られる。これは国鉄時代に国鉄の許可を得た業者しか弁当を販売できなかった名残だが、いまでは同会に加盟していない業者でも駅構内で弁当を販売している駅があるなど、「駅弁」の定義もあいまいな現状がある。
紙の時刻表自体も乗り換えアプリにとって代わられつつあり、駅弁と時刻表はともに旅に必需品ではなくなり、旅人のニーズの減退は否定できない。駅弁情報がJR時刻表からなくなるのも、このような抗いがたい産業と時代の変化を反映したものといえよう。
ただ、もう一つの全国時刻表の「JTB時刻表」では、時刻表編集部へ取材の結果、「駅弁情報については今後も掲載は続けてまいります」とのことだった。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)