米ニューヨークのチケットディスカウントストア「TKTS(ティーケーティーエス)」が2019年8月から日本でもフランチャイズ展開を始める。8月29日、1号店となる渋谷店(東京都渋谷区)が開店し、同日オープニングセレモニーが行われた。
興行チケットを定価以下の価格で販売する欧米流のチケットシステムは、日本のエンタメ界にどのような効果をもたらすだろうか。
海外カンパニーの来日公演まで
TKTSはニューヨークのブロードウェイで、当日を含めた近い公演日のチケットを定価以下で割り引いて販売しているチケットショップである。オンブロードウェイ、オフブロードウェイを問わずチケットを販売し、ニューヨークの舞台エンタメに貢献している。
米国に限らず、英ロンドン・独ベルリンなど欧米では、公演直前のチケットを定価割れ販売するディスカウントショップが街角に存在して、その都市の演劇文化を支えている。
日本ではまず8月29日に渋谷店が、9月5日になんば店(大阪市中央区)が開店する。どちらの店舗でもニューヨーク同様に、多様な興行のチケットを当日・翌日のものに限り、定価もしくは定価以下で販売する戦略である。プレイガイドでの定価販売がほとんどで、定価以下での一次流通はほとんど例がなかった日本の興行チケットに一石を投じる形になる。
ニューヨークのTKTSから公認を得て、日本版TKTSを展開するロングランプランニング(東京都新宿区)の榑松(くれまつ)大剛社長によれば、ミュージカルをメインとしつつ、伝統芸能や小劇場の興行、美術展など多様な興行のチケットを販売する。海外カンパニーの来日公演のような話題の公演もTKTSで購入できる。
「当日・翌日のチケットを自前の劇場以外で販売できるルートが日本にはほとんどありませんでした。欧米と日本の演劇文化の違いは、旅行者がふらりと舞台を見たくなる『タビ中』のニーズを受け止めているかどうかにあります」(榑松社長)
一方、ライト層取り込みには課題も...
日本では旅行や休暇でちょっと暇な時にエンタメを見に行こう、という文化がまだ定着途上なので、そういったニーズをTKTSで喚起していくことが狙いだ。ロングランプランニングが全国で開設しているチケットショップも順次TKTSに改装していく予定であり、ライトな演劇ファンを増やし、日本の演劇文化をより身近に、また観光産業の核に据えていける可能性を持っている。
しかし、実際にチケットを買うプロセスには、まだライト層取り込みのための壁が存在する。
TKTSでのチケットのディスカウント率は20~50%であるが、榑松社長によればこれは欧米のディスカウントチケットに比べるとまだ低い数字だ。また、現状支払いはカード決済のみで現金対応の目途は立っていないとのこと。店舗でスタッフが話せる言葉も日本語・英語・韓国語・イタリア語・アルバニア語で、中国語は未対応である。外国人・日本人を問わずふらりと気軽にチケットを買える環境をまだ整えていく必要があるだろう。
小手伸也「どのように取り入れて演劇業界を盛り上げていけるかがキモ」
オープニングセレモニーにゲストとして出演した俳優・劇作家の小手伸也さんはTKTSの開店について、
「チケットをどのように皆さんに買っていただくか常々努力してきましたが、お客様がチケットに出会える場所がまた一つ生まれたことは大いに期待しています。それぞれの劇場と劇団がこのシステムをどのように取り入れて演劇業界を盛り上げていけるかがキモになると思います」
と述べ、特に小規模な劇場・劇団がこの販路を活用することに期待を寄せた。同じくゲストの俳優・成河(ソンハ)さんも、
「劇場にそれまでと全く違う客層のお客様がいらっしゃれば、僕ら演劇人にも大いに刺激になります。一朝一夕でうまくいくものではありませんが、いろんな議論が生まれることが最初かなと思います」
と感想を述べた。劇場に1人でも多くの観客を呼ぶための演劇人とプロモーターの試行錯誤が、TKTSの進出で始まりそうである。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)