銃規制の動きで銃を買い求める人が増える
今回、立て続けに起きた銃乱射事件後も、民主党支持者らから銃規制に弱腰だと批判されているトランプ氏は、「私はこれまでの大統領とは違う。NRAを説得するのはそんなに難しいことではない」と豪語した。
これに対してNRAは、2020年の次期米大統領選に向けて、銃乱射事件が政治に利用されていると非難、バックグラウンドチェック強化に反発している。
NRA最高責任者のウェイン・ラピエール氏は、「この件について、トランプ大統領や主要な指導者と個人的に対談するのは気が進まない。これまで出された多くの提案は、米国の多発する暴力の問題の根っこを取り上げ、犯罪行為に正面から立ち向かい、我々が暮らす社会をより安全にするものではない」とウエブサイトに声明を発表している。
キャシーは夫の死後、銃をすべて夫の兄弟に預け、鍵をかけて保管してもらっている。「銃が何丁もうちにあることを夫のドラッグ仲間は知っていたから、盗んで人を撃ったりしたら大変だと思った」からだ。
銃はその後、誰の手に渡るのだろうか。夫の兄弟のひとりも覚醒剤に手を染めている。「銃を譲られた人のバックグラウンドチェックはない」とミルウォーキーの銃販売店の店員は言っていた。銃が買い手から誰の手に渡ろうと、それを辿るのは不可能に近い。
そのほとんどは、安全に保管されていると言われているものの、今、米国で一般市民が約1500万丁のミリタリースタイルの銃を所有している。銃全体では約3億丁に及ぶ。銃乱射事件が起こり、銃規制の動きが高まると、銃を買えなくなると心配し、買い求める人が増える。
「皆が銃を手にすれば、安全な社会になる」――。
キャシーは何度もそう、繰り返していた。
(この項終わり。随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。