「朝起きたら犯人扱いされていた」。常磐道でのあおり運転傷害事件で加害者の車に同乗していた女だというデマを流された都内在住の女性が2019年8月23日、代理人弁護士と会見を開き、被害の生々しい実態を語った。
インターネット上に最初のデマ情報を流した人物だけでなく、ツイッターのリツイート機能で拡散に加担した人々にも法的措置を検討している。
「一言『ネットで晒されているよ』と」
男が10日、あおり運転のうえ後続車を停めさせて詰め寄り、運転手の男性を何度も殴ってケガを負わせたこの事件。加害者の車に同乗し、降りて携帯電話で撮影をはじめた女がいた。のちに男は宮崎文夫容疑者、女は喜本奈津子容疑者だと分かるわけだが、名前が判明していなかった事件直後、この同乗していた「ガラケー女」だと根も葉もないデマを流されてしまったのが、今回会見した女性である。
「私がまだ寝ている時、友人から連絡が届いていました。一言『ネットで晒されているよ』と。何のことか全然分からない。URLを教えてもらって、見たら本当に私の名前と顔が出ていました。
『なんで?』というのが最初に思ったことです。状況が全然飲み込めない。どうしてこうなったのか、この後どうなるのか、私はどうすればいいのか、混乱しました」(会見での女性発言)
宮崎容疑者が指名手配されたのは16日。デマが流れたのは17日未明とされている。女性の名前はツイッターや5ちゃんねる、まとめブログなどネット上で大きく拡散。自身のインスタグラムアカウントにも誹謗中傷が相次ぐ事態となった。会社経営者でもある女性は18日、自社サイトに「事実無根」であると声明を出していた。
「友人には『フェイスブックとインスタグラムでメッセージを発信したほうがいいよ』と言われました。でも何を発信すればいいのかも分からない。どういう言葉でどういう表現をするのが得策なのかも分からない。実際に教えてもらってから考える時間ができてしまいました。もう少し早く発信できていればよかったのかもしれませんが、訳が分からない状態でした」
影響拡大「会社の社会的信用にも関わる」
デマが流れるひとつの「根拠」とされたのが、女性のインスタグラムアカウントを宮崎容疑者がフォローしていたこと。だが2人の間に何ら関係がない。「分かりません。全然知らない方ですので、なぜフォローされたのか分かりません」と女性は困惑する。デマを信じて連絡する人々が押し寄せた。
「当初は犯人の名前をフルネームで把握していませんでした。『そいつ(宮崎容疑者)の女か?』というメールも届いていました。でも何のことを言っているのか分からない。メールとフェイスブックとインスタグラムとツイッターの通知が鳴りやまなくて、電話もずっと鳴っていました。最初は一つ一つの内容確認はしていませんでした。流し読みくらいです」
その中でも驚いたことがある。親世代とみられるユーザーも加担していたことだ。
「誹謗中傷はいろいろありましたが、アカウントを一つ一つ見ていった中で、小さなお子さんを抱えるお母さん、子ども自慢の投稿をしているお父さんらしい人もいたことにはびっくりしました。『もし自分が...自分の子どもが...』と考えたらどう対応するのか。それも含めて本当に考えてほしい」
いわれのない中傷は、女性本人はもちろん関係各所にも被害を及ぼしている。
「全く関係ないところから誹謗中傷を受けることがあるんだなと。悪質な表現をされることも結構多かったので精神的ダメージも大きかったです。会社の社会的信用にも関わり、実際に取引先から電話をいただきました。私個人で済む話ではないのです。その影響が非常に大きかった」
誹謗中傷してきた人や拡散に加担した人には、怒りとともにこんな思いも抱いていた。女性は呆れたように語る。
「全く事実ではないことなので、直接連絡してくる人に対しては客観的にすごいなと思いました。『全く知らない人に連絡してくる労力を他のところに使えばいいのにな』とか考えてしまいました。今回これだけ騒ぎが大きくなったことを受けて、拡散の怖さ、恐ろしさ、リツイートも軽い気持ちで関係ないのではなくて、しっかり考えていただきたい」
「いつ誰が同じ状況になってもおかしくありません」
早期に喜本容疑者の名前が判明したことで、代理人の小沢一仁弁護士は「比較的早く火消しできている」と話す。一方、「デマをリツイートしただけの人たちは、おそらくただ興味を持っただけ、あるいは正義感、『これは広めなければならない』という動機でやったのだろうと思っています。自分が正しいと思っている層の行動を止めるのは簡単ではありません」とデマ拡散への対応の難しさも口にする。女性も他人事ととらえてほしくない思いを明かす。
「この事態を自分で防げたのかと言われたら難しいでしょう。であれば、こうなった(デマが広がった)時にどう対応するのが正しいかという知識を、あらかじめ持っておかないといけないと思います。私は対応の仕方が分からなくて困りました。いつ誰が同じ状況になってもおかしくありません」
膨大なデマ拡散のすべてを削除するのは難しい。女性は「不本意ではありますが、現実的にどうしようもないことであれば、そこに私ができることはありません。逆に事実を広めていきたい。(名前と顔写真が)こういう風に残ってしまい、犯罪につながるということを、私なりに発信していきたい」と決意を込めていた。
女性と小沢弁護士は今後、デマ投稿者、それをもとに拡散した人、そしてデマ情報をリツイートした人に対しても、法的措置をとることを表明している。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)