韓国政府は2019年8月22日、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を継続せずに破棄すると発表した。破棄は回避されるとの見方が広がっていた中での決定で、日韓両国で驚きが広がった。
懸念されるのが、相次いでミサイルを発射している北朝鮮に対応するための日韓米の連携への影響だ。韓国メディアでは、「朝中東」として知られる大手3紙(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)が韓国政府の対応を疑問視する一方で、それ以外は「協定の終了は日本の自業自得」(ハンギョレ新聞)などと韓国政府に理解を示す論調も目立つ。
8月15日の演説では安保協力に言及していた
GSOMIAは16年11月に日韓が署名・発効。有効期限は1年で、期限の90日前(8月24日)までにどちらか一方が終了の意志を伝えない限り、自動更新される。日韓関係の悪化を受け、韓国の一部市民団体や労働組合から破棄論が出ていたが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が8月15日の演説で
「私たちは、過去にとどまっているわけではなく、日本との安全保障・経済協力を続けてきた」
などと安保協力に明示的に言及したことから、破棄は回避されるとの見方が広がっていた。
だが、青瓦台(大統領府)は一転、日本が韓国を「ホワイト国」から除外したことで「両国間の安全保障環境に重大な変化をもたらした」ため、GSOMIAの継続が「私たちの国益に合致しないと判断した」として破棄を決めた。
朝鮮日報「国民は馬鹿ではない」
8月23日付の社説を見る限りでは、保守系の朝鮮日報が最も激しく韓国政府を非難した。
同紙では、GSOMIAを米国が「全面的に支持する」していたことを念頭に、
「このような状況でGSOMIAを破棄したのは、韓国が(日韓米)3国の安全保障協力を破るというシグナルを送ることだ。北朝鮮と中国、ロシアを喜ばせることになる」
懸念を示し、安保問題で、「ホワイト国」除外問題という経済問題への「対抗カード」を切ったことは「自傷行為に他ならない」と指摘した。
韓国では、司法相の候補者でもあるチョ・グク前青瓦台民情首席秘書官をめぐり、娘が大学や大学院に不正入学したとの疑惑が指摘されている。社説では、GSOMIA破棄でチョ・グク氏の問題によるダメージを食い止めようとする狙いがあったと分析している。
「青瓦台が、このような衝撃的な無理をしたのは、チョ・グク司法相候補者に対する世論が悪化する政局を転換しようとしたからではないのか。大事故を起こして、それを別の大事故で覆い隠そうとするのか。また、安全保障問題を利用することはあまりにも無責任である。国民は馬鹿ではない」
中央日報も、
「(韓国政府の主張にも)一理ないわけではないが、安全保障上の国益を考えると誤った判断だと言わざるを得ない」
と政府の判断を疑問視。日米との関係悪化に懸念を示した。
「この政府は日本と永遠に敵対関係でいくつもりなのか問わざるを得ない」
「このような(米国がGSOMIAを支持している)時に破棄してしまえば、日本はもちろん米国が韓国を信頼できる同盟だと思うだろうか」
東亜日報も、「韓米同盟・北朝鮮核対応十分に考慮したのか」の見出しで、
「お互いを信頼していない関係で秘密を共有することは不可能なのも事実だ。だからといって、その信頼の基盤を崩すことは矯角殺牛(少しの欠点を直そうとして全体をだめにしてしまうこと)の誤りを犯す可能性がある」
などと論じた。
ハンギョレ、京郷は日本が歩み寄らなかったことを非難
主要3紙以外は、総じて韓国政府の決定に理解を示した。ハンギョレ新聞は、「政府が日本にこのように強力な警告を発信したのは避けられない選択」だとして韓国政府の決定を支持。文氏が8月15日の演説で
「今でも日本が対話と協力の道を選ぶなら、私たちは喜んで手を握る」
と呼びかけたにもかかわらず日本側が反応しなかったことや、8月21日の日韓首脳会談でも日本側が歩み寄らなかったことから、
「結局、協定の終了は、日本の自業自得であるわけだ」
だと主張。その上で
「貿易報復中断どころか外交協議すら拒否し、信頼に基づいた軍事情報の交流を継続して欲しい、といのは二律背反だ。安倍政権は今からでも状況の厳しさを察し賢明な選択をすべきだ」
などと日本側を一方的に非難。GSOMIA破棄にともなう韓国側への不利益には言及しなかった。
京郷新聞は、GSOMIAの意義や、破棄にともなう悪影響に言及しながら、その責任は日本側にあると主張した。
「GSOMIAを終了するのは、この協定の締結を手配した米国との関係を悪化させる可能性があるという点で、選択するのは容易でない対応だ。にもかかわらず、大統領府は断固とした決定を下した。これは安倍晋三・日本政府がもたらしたものである」
ソウル新聞は、北朝鮮がミサイルを発射した際の速度や飛行ルートの推定は完全に韓国側の情報に依存しているとして、「GSOMIAは、実効性を計算すれば韓国よりは日本の利点が大きい」と指摘。
「GSOMIAを延長しないことにした以上、韓国政府は、その後の対策に万全を期さなければならない」
として、日本の輸出規制がさらに強化されて貿易規模が縮小することへの備えや、GSOMIAの延長を求めていた米国への十分な説得を求めた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)