出産・育児情報サイト大手の「ベビカム」で、不正確な医療関連記事を配信していたとして、運営会社は「読者のみなさまに深くお詫びする」と謝罪した。
専門家は、他にも問題をはらんでいると指摘し、「ウェルクやヘルスケア大学の騒動から何も学んでない」とあきれる。
日本最大級の育児コミュニティ
ベビカムは、同名の企業(東京都港区)が1998年に立ち上げた。19年7月のプレスリリースでは「年間800万人以上のママたちが訪れる日本最大級の育児コミュニティサイト」とうたい、16年には小学館との資本提携を発表している。
妊娠や出産、育児にまつわる記事を中心に配信しているが、「お役立ち健康ニュース」との枠で健康・医療関連の情報も伝えている。
しかし、19年6月に公開された記事「夏、男の子に多い急性出血性膀胱炎。女の子に多い膀胱炎との違いは?」をめぐり、五本木クリニック(泌尿器科・内科)院長の桑満おさむ氏が、不正確な記述が多数あるとブログで指摘した。
記事では、出血性膀胱炎の原因はアデノウイルスで、安静にしているだけで自然に治るとの旨の記載をしていたという。
健康被害のリスクも
桑満氏はJ-CASTニュースの取材に、「出血性膀胱炎はアデノウイルス以外も原因疾患になる場合があります。特別な治療は必要ないともありましたが、大きな病気が潜んでいる可能性もあり、血尿が見られたら医療機関を受診すべきです」と話し、読者に健康被害をもたらす恐れもあると指摘する。
記事に筆者名や専門家の監修の有無などは書かれておらず、「尿管と尿道の違いすらよくわかっていないような記述もあり、誰がチェックしているのか不明瞭なのも問題かと思います」
桑満氏がブログで指摘後、記事ページを開くと「『お役立ち健康ニュース』は内容を確認中のため、現在、配信を停止しています」と表示され、すべての記事が非公開となった。
なお、サイトの免責事項には「弊社は、『ベビカム』に掲載された情報につき、その正確性、信頼性および有用性を含めて、いかなる保証も行いません。また、これらの情報には、技術的な不正確性または誤記があることがあります」と記されている。
ベビカム社に7月30日、具体的な確認内容や編集体制、信頼性の担保方法などを書面で尋ねると、その後「お役立ち健康ニュース」の枠自体が消えた。
ベビカム「誤解を与える表現だった」
ベビカムの広報担当者は8月2日、
「ご指摘の記事は、あたかも『お子さまに生じた血尿の症状について、医師の診断を受けるまでもなく、特別な治療は必要ない』という誤解を与える記述になっておりました。お子さまに生じる血尿には、急性出血性膀胱炎以外にも様々な疾患が考えられ、その鑑別は困難で、まず医師の診断を受けることが必要です。読者のみなさまに深くお詫びすると同時に、同記事を撤回削除させていただきます。今後はこのような事態を招かぬよう十全の配慮をして参ります」
と答えるにとどめた。再度問うと、
「急性出血性膀胱炎に関する当サイト記事は、『子ども医学館』(編注:小学館の医学事典)を参考にしていますが、そのまま抜粋したものではなく、弊社ライターによる記事化に際し、誤解を与える表現になってしまいました。このことを反省し、『お役立ち健康ニュース』に掲載した全ての記事内容を確認しているところです」
との回答だった。
小学館にも見解を求めたが、「回答を控えさせていただきます」との返事だった。
他のコンテンツにも疑義
同サイトには、「お役立ち健康ニュース」枠以外にも、「ベビカムニュース」枠で「ギックリ腰で妊娠の予感...!ひどい肩こりや発疹も妊娠のせい?」「乳幼児突然死症候群(SIDS)、うつぶせ寝以外の危険因子とは?」などヘルスケア関連の記事を配信している。
ほかにも、小学館の医学事典を元にした病気・症状の検索データベース「ベビカム医学大辞典 病気ナビ」や、Q&Aページ「ベビカム相談室」がある。
ベビカム相談室は、出産や育児にまつわる悩みを医師などの専門家や"先輩ママ"に相談できるとの立てつけだが、桑満氏は「多くは素人が素人に聞く構造になっていて、ネットの掲示板だったらまだしも、育児サイトでこれはどうのなのでしょう」と非難する。
「子育て・育児」欄の最新の100の質問(19年5月23日~8月22日)を見ると、専門家の回答率は6%だった。
桑満氏は「総じて、ウェルクやヘルスケア大学の騒動から何も学んでない」とあきれる。
健康・医療情報サイトをめぐっては、DeNAが運営する「WELQ」で不正確な内容の記事などが批判を浴び、16年11月に閉鎖した。リッチメディア運営の「ヘルスケア大学」でも同様の批判を集め、17年6月に信頼性向上のための改善策などをまとめた報告書を公表した。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)