愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」について、ネット上では騒ぎは静まりつつあるが、やはり一言言っておきたい。
ご承知のとおり、昭和天皇の写真をバーナーで焼いて灰を踏み付けるような映像作品や、「慰安婦像」として知られる少女像などがあった「表現の不自由展・その後」という企画展がわずか3日で中止された。
全額民間の「自腹」開催なら...
それに対して、現場責任者(芸術監督)の津田大介氏は、2019年8月15日にネット上で公開した「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』に関するお詫びと報告」(16日に追記あり)において、次のことをいっている。
「そもそもの企画が『公立の美術館で検閲を受けた作品を展示する』という趣旨である以上、不自由展実行委が推薦する作品を僕が拒絶してしまうと、まさに『公的なイベントで事前"検閲"が発生』したことになってしまいます」
また、「あいちトリエンナーレ」の運営責任者(実行委員会会長)は、愛知県の大村秀章知事だ。その大村知事も8月5日の会見などで、「検閲になるから」と、事前チェックで展示中止の判断をしなかった無責任の言い訳に使っている。会見の動画は県庁サイトの「知事記者会見」ページから確認できる。
筆者にとって奇妙なのは、大村知事も津田氏も、公金投入が前提になっていることだ。
ちょっと頭の体操をしてみよう。もし、「表現の不自由展・その後」が、公金が投入されず行われたらどうだろうか。イメージを得るために、朝日新聞(文化財団)は「あいちトリエンナーレ」にカネを出しているが(助成団体の一つ)、たとえば、朝日新聞の自腹で朝日新聞本社で展示が行われ、それを朝日新聞が報じていたら、どうか。昭和天皇の写真の焼却映像も、見たくない人は見ないだけで、まさか中止に追い込まれるような事態にはならなかっただろう。
「あいちトリエンナーレ」には、文化庁予算も投入されているから、筆者も一応納税者として意見が言える。まったく誰かの自腹なら、表現の自由なんだから、コメントすべきでないという立場だ。
文化庁による映画などへの補助事業への疑問
憲法第21条第2項で禁止されている検閲とは、行政権が主体となり、思想内容等の表現物を対象として事前に内容を審査して、不適切と認めるものの発表を禁止することだ。公金が投入されていなければ、そもそも検閲にならない。大村知事と津田氏は、公金投入を当然とし、その上で検閲になるという理由で無責任になっているだけにしかみえない。
公金投入となれば、多くの納税者を納得させる必要があるので、物議を醸すものは開催できないので、「表現の不自由展・その後」はそもそも無理というのが、筆者の感覚である。
しかし、「表現の不自由展・その後」の擁護者は、そもそも公金投入は当然で、その上で検閲になるから、事前チェックできないと、本末転倒なことをいっている。
筆者は、役人時代から、文化庁による映画などへの補助事業を疑問に思っていた。公金支出なのに検閲禁止を理由として事前チェックがない、まさに今回の「表現の不自由展・その後」のようなケースが横行している。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)、「『バカ』を一撃で倒すニッポンの大正解」(ビジネス社)など。