岡田光世 「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
銃乱射の日常めぐる「思い」を聞く 前編

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銃による死者はすでに9295人

   3Dプリンターで殺傷能力のある銃を作成し、逮捕される事件が日本でも起きている。手にするべきではない人の手に、凶器が渡らないようにするにはどうすればよいのか。

「犯人のほとんどは、白人の若い男だ。メンタルヘルスの問題は大きい。SNSでの危険な発言を監視するというのもひとつだが、それは干し草の山のなかから針を探すようなものだ。今回のような銃乱射事件を、メディアがカバーするべきじゃないと思うこともある。犯人に注目を浴びさせるだけでなく、ほかの事件を誘発することになる」

   トランプ大統領は、「銃乱射は心の病が原因だ。誰もそれに触れようとしないが、引き金を引くのは、銃ではなく人間だ。関連機関の設立を」と訴えている。

   これに対して、コロンビア大学の精神分析医は、「精神疾患者による銃乱射事件は全体の22%にすぎない」と反論。心理学の専門家らも、「銃乱射を心の病と結びつける根拠はない。心の病を抱える人の割合は世界中でさほど変わりはないのに、我が国のように銃乱射がひんぱんには起きていない」としている。

   心の病を抱える人たちがSNSで、「自分は殺人など犯さない」とトランプ氏に怒りをぶつける。同氏を支持する人たちは、「怒りや嫌悪感を抱いても、普通は殺害にまで及ばない。やはり、心の病があるからだ」と主張する。

   トランプ氏は「暴力的なビデオゲームの規制」も訴えているのに対し、「銃規制から目をそらしている」と批判されている。

   その後、8月14日にはペンシルベニア州フィラデルフィアで、警官6人が銃撃されて負傷した。こうした事件は、米国内で毎日のように起きている銃撃事件の氷山の一角にすぎない。非営利団体「Gun Violence Archive」によれば、自殺を除く銃による死者が今年に入ってすでに9295人という信じられない数だ(2019年8月17日現在)。

   万が一の時のために、自分や家族の身を守るために銃を家に置いている、というこの町の別の男性(60代)は、「私は責任持って、銃を保管している。合衆国憲法修正第2条で謳われているように、個人が銃を持つ権利は守られるべきだ」と言った。

   修正案第2条には、「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」と書かれている。

(次回に続く。随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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