天皇陛下「おことば」、上皇さまから受け継ぐ思いと変化 保阪正康氏の見方は

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   74回目の終戦の日にあたる2019年8月15日、政府主催の全国戦没者追悼式が東京・北の丸公園の日本武道館で開かれた。皇太子時代から折に触れて平和への思いを明らかにしてきた天皇陛下は初めて式典に臨席。戦後生まれの天皇として「おことば」を述べた。

   19年4月に退位した上皇さまは1989年以来、「おことば」を述べてきた。戦後70年の15年から「深い反省とともに」という表現が、最後の臨席となった18年には「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」の一節が加わった。天皇陛下の「おことば」では、この2つの表現を含む内容の大半を踏襲。上皇さまの平和への願いを受け継いだ。

  • 令和初の全国戦没者追悼式で「おことば」を述べる天皇陛下(写真奥)
    令和初の全国戦没者追悼式で「おことば」を述べる天皇陛下(写真奥)
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    令和初の全国戦没者追悼式で「おことば」を述べる天皇陛下(写真奥)
  • 令和初の全国戦没者追悼式で「おことば」を述べる天皇陛下(写真奥)
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「戦後生まれ」反映、変わった部分は

   「おことば」の文言は基本的には同じ内容だが、例外だったのは戦後50年と70年を迎えた1995年と2015年。 戦後50年の1995年の「おことば」では、これまでの「つきることのない悲しみを覚えます」が「深い悲しみを新たにいたします」に改められ、新たに「ここに歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」が加わった。戦後60年の2005年に大きな変化はなかったが、戦後70年の15年には「先の大戦に対する深い反省とともに」という表現が加わった。「深い反省」という表現は4年連続だ。

   今回の天皇陛下の「おことば」で明確な変化があったのが、「今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが」の一節の前後の表現だ。直前の「国民のたゆみない努力により」は、「人々のたゆみない努力により」になり、直後の「苦難に満ちた往時をしのぶとき、感慨は今なお尽きることがありません」は「多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき、誠に感慨深いものがあります」になった。特に後者は、天皇陛下が戦後(1960年)生まれだという点を反映したとみられる。

   天皇陛下は皇太子時代の16年2月の誕生日会見で、上皇ご夫妻が戦後70年にあたる15年にパラオ、16年にフィリピンを慰霊のために訪問したことに触れ、

「両陛下の平和を思うお気持ちの深さに改めて感銘を受けるとともに、そのお心を私たち次の世代がしっかり受け継いでいかなければならないということについての心構えを新たに致しました」

と述べていた。

「おことば」に込められた思いを読む

   J-CASTニュースで「保阪正康の『不可視の視点』 明治維新150年でふり返る近代日本」を連載中のノンフィクション作家・保阪正康さんは、上皇さまと天皇陛下では「おことば」の用語が微妙に使い分けられているとする一方で、「戦後の国民の努力を讃える心情」は共通しているとみる。

「戦没者追悼式の天皇の『おことば』には、二つの意味があるように思う。その第一は、天皇家は8月15日の追悼式の受け止め方をきちんと定められているという事実である。第二は、そうは言ってもそれぞれの天皇の太平洋戦争への向き合い方は異なっているために、用いる用語は微妙に使い分けられている。今年のおことばと昨年の上皇陛下のおことばはほとんど同じである。このことは上皇、そして天皇との間に、かつての戦争で亡くなった戦死者を悼むという気持ち、戦争の傷跡を克服して、『我が国の平和と繁栄』を築き上げた戦後の国民の努力を讃える心情が共通していることを示している。私たちは改めてそのことをくみ取るべきだと思う。同時に上皇陛下は、戦争が終わった時には11歳であり、戦争の悲惨さを少年の目で確かめられている。現天皇は、戦争が終わって15年後のお生まれである。直接には戦争を知らない世代であり、それが第二の点としての指摘である」

   さらに、今回の「おことば」の特徴として、戦後生まれの天皇に代替わりしたことで、「同時代史から歴史への段階に移った」ことを挙げた。

「今回のおことばの中の、3番目の文にある『ここに過去を顧み、深い反省の上に立って』との表現は反省という歴史的な事実の上に、戦争の惨禍を繰り返されぬように願うと続いている。これは昨年の『深い反省とともに』とは若干の違いがあり、反省を随伴してといった次元からの変化である。つまり同時代史から歴史への段階に移ったことが、今回のおことばの最大の特徴である」

   天皇陛下の「おことば」全文は次のとおり。

「本日、『戦没者を追悼し平和を祈念する日』に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
終戦以来74年、人々のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき、誠に感慨深いものがあります。
戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」

   今回の式典には天皇皇后両陛下、安倍晋三首相、97歳から4歳までの遺族ら約7000人が参列し、日中戦争と第2次世界大戦で犠牲になった約310万人を追悼した。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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