日本勢が「漁夫の利」
フォードの売れ行き不振の背景としては、同社内部の問題も考えられる。フォード本社の中国担当CEO(最高経営責任者)は昨年初めに突然退任し、10月に後任が決まるまでトップ不在の状態だった。それもあってか新モデルもずっと投入されなかった。市場退潮に加えて対米摩擦による「米国製品買い控え」の空気が強まる環境で、上層部が混乱している状態ではまともに戦えるはずはなかったとも言える。同じアメリカのBIG3でも、GMの昨年の中国販売台数は、前年比1割減にとどまっているのだ。
フォード・エンジニア出身の米国籍中国人である新たなCEOの指示の下、本国米国でも未搭載の技術も搭載した野心的な新モデル投入などで、フォードは立て直しに懸命だ。ただ、ここに来て厄介な問題が新たに浮上している。7月から、主要都市での排ガス規制が厳格化されたのだ。さらに、電気自動車(EV)中心だったエコカー推進について、当局は、日本勢が得意なハイブリッド車(HV)への優遇措置導入を新たに検討していると伝えられる。状況は明らかに日本勢に有利になっている。米中間で漁夫の利を得ている形の日本メーカーの売り上げは、会社ごとの明暗は多少あるものの、全体の車市場が収縮するなかでほぼ堅調だ。今年6月には日系大手5社すべての新車販売台数が前年同月比プラスとなった。
それにしても、一流経済紙のFTに中国からの撤退の可能性を伝えられてしまったフォードの今後が、私は気にかかる。実際に撤退を決めたなら、トランプ大統領は間違いなく拍手喝さいするだろうが、中国の自動車業界、さらに経済全体への影響は大きなものになる。関連分野も含めた中国の自動車産業がGDPに占める割合はほぼ1割。車は中国で最大の産業なのだ。
(在北京ジャーナリスト 陳言)