高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
中国への為替操作国認定 トランプ政権が見据える「その先」

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   トランプ政権が中国を為替操作国に認定した。為替操作国とは、アメリカ財務省がアメリカ議会に提出する為替政策報告書に基づき、アメリカ議会が為替相場を不当操作していると認定した国である。具体的条件があり、(1)対米貿易黒字が年200億ドル以上、(2)経常黒字が国内総生産(GDP)の2%以上、(3)為替介入による外貨購入額がGDPの2%以上――の3基準に該当すれば原則として為替操作国に認定する。

   1980年代から90年代、台湾、韓国が為替操作国に認定されたことがあり、94年7月に中国を為替操作国に認定した以降、為替操作国に認定された国は2000年代以降これまでになかった。

  • トランプ米大統領 <(C)FAMOUS>
    トランプ米大統領 <(C)FAMOUS>
  • トランプ米大統領 <(C)FAMOUS>

為替自由化の次は「資本自由化」を求められる

   2016年から、中国、台湾、韓国、日本、ドイツ、スイス、インド、アイルランド、イタリア、ベトナム、シンガポール、マレーシアが、3条件の2つを満たすとして、為替監視国としてリストアップされていた。

   他方、IMF(国際通貨基金)では各国為替制度を分類している。そのIMF分類では、厳格・緩やかな国定相場制、変動相場制、その他に各国が分類されているが、2018年でそれぞれの割合は、59%、34%、7%だ。

   この分類等によれば、為替監視国リストのうち中国、ベトナム、シンガポール以外の国は変動相場制とされているので、それらの国では、為替操作国に認定されることはまずない。

   今回、中国が為替操作国とされたのは、IMF分類でも固定相場制として分類されており、ほぼ予定通りだ。

   日本などの先進国は、よほど大規模に為替介入しなければ、アメリカから為替操作国として認定されることはない。この意味で、今回のアメリカの認定は中国の問題だ。

   これは今後大きな問題になる。実は、中国は為替自由化、ひいては資本自由化を求められ、資本自由化と相容れない共産主義の体制問題に発展するだろう。

「一党独裁社会主義」への影響は

   これを理解する鍵は「国際金融のトリレンマ」だ。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい二つしか選べない。

   そのため、先進国は二つのタイプになる。一つは日本や米国のような変動相場制である。もう一つはユーロ圏のような域内の固定相場制だが、域外に対しては変動相場制なので、域内を一つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえる。いずれにしても、(1)自由な資本移動は必須なので、(2)固定相場制をとるか(3)独立した金融政策をとるかの選択になるが、(2)固定相場制を放棄し、変動相場制である。

   中国は、そうした先進国タイプになれない。中国は、一党独裁社会主義であるので、(1)自由な資本移動は基本的に採用できない。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前だ。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社をもてない。中国へ出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁まで外資が会社の支配権を持つことはない。そこで、(2)固定相場制と(3)独立した金融政策になる。

   そこで、アメリカは、(2)固定相場制を放棄せよと迫る。これは、中国に対して、先進国タイプになれというのに等しく、結果として(1)自由な資本移動をも導入せよというのにつながる。これは、中国に対し、一党独裁社会主義をやめろというわけだ。どのように中国が対抗してくるのか見物である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)、「『バカ』を一撃で倒すニッポンの大正解」(ビジネス社)など。


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