「一党独裁社会主義」への影響は
これを理解する鍵は「国際金融のトリレンマ」だ。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい二つしか選べない。
そのため、先進国は二つのタイプになる。一つは日本や米国のような変動相場制である。もう一つはユーロ圏のような域内の固定相場制だが、域外に対しては変動相場制なので、域内を一つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえる。いずれにしても、(1)自由な資本移動は必須なので、(2)固定相場制をとるか(3)独立した金融政策をとるかの選択になるが、(2)固定相場制を放棄し、変動相場制である。
中国は、そうした先進国タイプになれない。中国は、一党独裁社会主義であるので、(1)自由な資本移動は基本的に採用できない。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前だ。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社をもてない。中国へ出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁まで外資が会社の支配権を持つことはない。そこで、(2)固定相場制と(3)独立した金融政策になる。
そこで、アメリカは、(2)固定相場制を放棄せよと迫る。これは、中国に対して、先進国タイプになれというのに等しく、結果として(1)自由な資本移動をも導入せよというのにつながる。これは、中国に対し、一党独裁社会主義をやめろというわけだ。どのように中国が対抗してくるのか見物である。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)、「『バカ』を一撃で倒すニッポンの大正解」(ビジネス社)など。