韓国の「ホワイト国」除外をめぐる問題で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が2019年8月5日に青瓦台(大統領府)で開いた首席秘書官・補佐官会議で「南北共闘」を打ち出した。曰く、南北間の経済協力で「平和経済」が実現すれば「一気に日本の優位性に追いつくことができる」。
文氏は、南北関係の紆余曲折で「容易に悲観する問題ではない」と主張する。だが、発言の翌日には北朝鮮が米韓合同軍事演習を非難する声明を出し、「新しい道を模索せざるを得なくなるかもしれない」とまで表明。連日のように「飛翔体」も発射されており、現時点では文氏の構想の画餅ぶりが際立っている。
勤勉な労働力や豊富な地下資源はありそうだが...
文氏は会議の冒頭発言で、日本によるホワイト国除外を改めて非難した上で、部品・素材産業の競争力を高めるための政策を進めることを表明。その上で、
「日本経済が、私たちよりも優位にあるのは、経済規模と国内市場だ。南北間の経済協力で平和経済が実現すれば、私たちは、一気に日本の優位性に追いつくことができる」
などと述べた。
文氏は
「平和経済は南北関係と米朝関係に紆余曲折があることによって容易に悲観したり、放棄したりする問題ではない」
とも説明しているが、その「曲折」の大きさは相当なものになりそうだ。国連の統計によると、17年の日本の名目国内総生産(GDP)は4兆8721億ドルで、韓国は1兆5308億ドル。北朝鮮は174億ドルだ。
北朝鮮には勤勉な労働力や豊富な地下資源が見込まれるが、「日本に追いつく」ためには、「平和経済」でGDPを3倍程度に引き上げる必要がある。
北朝鮮からもつれない反応が...
さらに、この経済協力は南北の2か国だけではできない。南北経済協力事業は北朝鮮にとって外貨獲得につながるため、早期に進めたい意向を繰り返し表明している。だが、その象徴でもある開城工業団地は国連安保理が17年に採択した制裁の対象だ。韓国が独自に経済協力を進めれば制裁違反になる可能性が高く、日米を含む国際社会の理解が不可欠だ。
文氏は以前から「平和経済」の考え方を提唱しており、ホワイト国除外の問題を受けて先鋭化した可能性もある。3月1日に行われた「3.1独立運動」100周年記念式典での演説では、「新しい100年は過去と質的に異なる100年になる」として、「『新朝鮮半島体制』へと大胆に転換し、統一を準備していく」と説明している。演説によると、この「新朝鮮半島体制」は
「理念と陣営の時代を終えた、新しい経済協力共同体」で、
「朝鮮半島で『平和経済』の時代を開いていく。金剛山観光と開城工業団地の再開案も米国と協議する」
と主張していた。
なお、北朝鮮は8月5日に始まった米韓合同軍事演習に反発。北朝鮮外務省は8月6日、
「前では対話についてよく唱え、振り返ってはわれわれを害する刃物を研ぐのが、米国と南朝鮮当局が喧伝(けんでん)する『創意的な解決策』であり、『常識を超える想像力』であるなら、われわれもやはり、すでに宣明した通りに新しい道を模索せざるを得なくなるかもしれない」
などと対南路線の見直しを示唆する談話を発表している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)