国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止になった問題をめぐり、新聞各紙はどう報じているのか。主要紙を見比べると、扱い方や論点の違いが見受けられる。
「『表現の自由』が大きく傷つけられた」と中止を問題視し、連日大きく報じるところがある一方、「公的イベントで適切だったか」と中止に理解を示す視点に触れたり、淡々と扱うにとどめたりするところもある。
中止発表の翌日、朝日は1面など大展開
会場がある愛知県の大村秀章知事(同芸術祭の実行委員会会長)が中止を発表したのは、2019年8月3日。トリエンナーレは、1日に始まったばかりだった。いわゆる従軍慰安婦を象徴する少女像の展示をめぐり、「脅迫」のような抗議が相次いだとして、「安全・安心な運営が難しくなる」と中止理由を説明した。
この中止を報じる4日付朝刊(東京最終版)以降、6日までの一般主要4紙(読売、朝日、毎日、産経)の朝刊での報道ぶりを比較してみた。
<朝日:4日>「表現の自由」が損なわれたという視点から中止を問題視し、連日大きく報道しているのは朝日新聞。4日付朝刊では4紙中、最も大きく紙面を割いた。1面トップ(4段見出し)、1面解説記事(視点)、1面コラム(天声人語)、2面(総合面)「時時刻刻」、さらに第1社会面(見開いて左側紙面、1社)の肩(第2項目扱い、4段見出しなど)で扱った。
このうち1面解説記事(編集委員執筆の「視点」)の見出しは、「許されない脅迫 考える場奪った」。2面・時時刻刻には、2人の識者のコメントが、それぞれ2段見出しで紹介され、「政治家の中止要求、検閲的行為」「混乱を理由 反対派の思うつぼ」と、いずれも中止に批判的な文言だった。一方、1社記事の見出しには「少女像に怒声・『終了』に落胆」とあり、展示内容に批判的な声があったことにも触れている。
<朝日:5、6日>朝日はさらに、5日付では第2社会面の2段見出し「表現の不自由展中止 会場前で反対の抗議」で報じた。6日付でも再び大展開し、社説「あいち企画展 中止招いた社会の病理」や、第1・第2社会面見開き(1社トップは4段見出し「表現の不自由展 政治家中止要請 憲法21条違反か 応酬」)、文化・文芸面「抗議殺到で中止 悪しき前例」「芸術祭 異なる背景知る機会」(横見出し)と扱った。第2社会面の識者への取材内容をまとめた記事の見出しは、いずれも横見出しで「展示中止 どう考える」「『嫌いでも尊重』が表現の自由」「意見伝え 作者の意図も聞く」だった。
また、社説の本文では、
「『表現の自由』が大きく傷つけられた。深刻な事態である」
「一連の事態は、社会がまさに『不自由』で息苦しい状態になってきていることを、目に見える形で突きつけた」
と指摘。さらに1社では、「『政府万歳しか出せなくなる』 永田町からも危惧する声」との見出しの囲み記事もあった。
産経記事「偏った政治的メッセージと受け取られかねず」
<産経:4日>朝日新聞とは異なったニュアンスがにじむ見出しが目につくのは産経。4日付では、1社の第2項目扱い(3.5段見出し「慰安婦像展示を中止 抗議1400件『安全に支障』」)だった。他メディアが「少女像」とするところ、見出しで「慰安婦像」表現を使った。中止を求めていた河村たかし・名古屋市長の主張も2段見出し(「やめて済む問題でない」 名古屋市長 展示関係者に謝罪要求)を使って紹介した。来場者の反応に関する記事では、3段見出しで「来場者『不快だった』『趣旨は賛同』」と賛否双方の声を紹介した。
<産経:5、6日>5日付には2社の第3項目で、「公的イベントで適切だったか」(3段見出し)と、展示内容に疑問を呈する署名記事を載せた。本文では「展示内容は偏った政治的メッセージと受け取られかねず、公金を使ったイベントとして公平性に欠ける不適切な内容という印象を受けた」と指摘していた。6日は、第3社会面に2段で「愛知知事『憲法違反』 展示中止要請 河村市長『規制は必要』」と、やはり中止を求めていた河村市長の主張も見出しに入れて伝えた。
<読売:4~6日>一方、淡々と報じている印象を与えるのは読売。4日付に2社の第3項目扱いの2段で「『少女像』企画展中止 愛知知事 脅迫受け『運営難しく』」と報じ、ベタ(1段見出し)で「『自由が萎縮』 ペンクラブ声明」とも伝えた。5日付では続報は見当たらず、6日付の第3社会面のベタで「『少女像』問題で 愛知知事が反論 名古屋市長に」と載せていた。
<毎日:4~6日>毎日も、朝日と同様の問題意識を発信している。4日付では1社トップ(6段見出し)で、1社紙面の約4分の3を割いて大きく報じた。5日付では1社第2項目で3段見出しだった。6日付には、社説「『表現の不自由展』中止 許されない暴力的脅しだ」と、第3総合面(クローズアップ)で触れた。クローズアップでは、「表現の自由 委縮も」(約1段分の大き目の横見出し)、「問題提起こそ現代美術」(3段見出し)との視点で報じている。