とある市議選の候補者らが、野次を飛ばした人物を取り囲む様子とされる動画が、ネット上で広まっている。動画では、候補者と関係者らが「名誉棄損」や「選挙妨害」と、一般人でもできる「私人逮捕」として、野次を飛ばした人物の身柄を確保している。
刑事訴訟法では、現行犯であれば一般人でも逮捕ができると定めているが、そもそもどんな時にできるのか。
弁護士に一般論を聞く
刑事訴訟法では、213条で「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」(私人逮捕が可能)と定めている。214条では、「検察官や検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕した」際、すぐに「地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない」としている。
では、そもそも私人逮捕はどんなものなのか。弁護士法人・響の西川研一代表弁護士は2019年8月5日、J-CASTニュースの取材に対し、一般論として次のように説明した。
「対象が現行犯人(現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者)や準現行犯人です。準現行犯にあたるのは、例えば、犯人として呼ばれて追われている状況などがあり、犯罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合です。また、現行犯人にあたる状況であっても、30万円以下の罰金刑など軽い犯罪の場合は、犯人の住居氏名が明らかではない、逃亡するおそれがなければ逮捕できないとされています。逮捕後には速やかに検察官や警察職員に引き渡さなければなりません。これらの私人逮捕であっても、当然ながら犯罪成立要件を満たしていることが前提になります。なお、『誰だ』などと声をかけられた人が逃げる場合も準現行犯人に当たり得ますが、それでも犯罪を行い終わってから間がないと明らかに認められることが必要なので、そういった状況もなく何もしてないのに逃げるだけであれば(私人逮捕の対象に)当たらないと考えられます」
一方で、刑法220条(逮捕監禁罪)は「不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する」と定めている。私人逮捕と、この逮捕監禁罪との関係には、次のように言及した。
「そもそも私人逮捕として認められる場合でも、それは人の身体を拘束する行為です。ただ、相手が現行犯人と認められるなど、一定の条件を満たした場合に身体の拘束が正当化されるにすぎません。したがって、相手の行為に犯罪が成立しないような場合、すなわち現行犯人や準現行犯人とはいえない場合に逮捕すると、私人逮捕の要件を満たさないだけでなく、不当に人の身体を拘束したものとして、逆に逮捕した行為について逮捕監禁罪や暴力罪などが成立することになります」
(J-CASTニュース編集部 田中美知生)