2020年の東京五輪を控え、エンタメ・スポーツのライブ市場は活気を増している。とりわけビジネスチャンスが見出されるのが、電子チケットだ。
ただ紙チケットが電子化されたのみならず、さまざまな仕掛けで電子チケットそのもののエンタメ化も可能なのが特徴で、そこに商機を見出す企業も現れている。デジタルなチケットにファンはどんな価値を見出しているのか、企業側は何を狙っているのかを取材した。
電子チケットユーザーの特徴は...
電子チケットは現在、EMTG・ボードウォークなど複数の企業が独自のサービスを展開している。
顔認証やQRコード認証、電子スタンプの導入で転売防止とローコスト化に効果があるが、その代わりにアプリへの事前登録や顔写真登録を必要なチケットも多い。その手間をいとわない熱烈な固定ファンを抱えるアーティストやスポーツクラブが導入し、ファンクラブ限定で電子チケット化を推進している例は少なくない。
国内最大手の電子チケットサービス「ticket board」を運営するボードウォークがドリームインキュベータと共同で2018年12月に行ったアンケート調査によると、ticket boardの会員は非会員に比べるとイベントに参加した時のSNS利用頻度が高く、グッズ購入費も高い。もともとエンタメコンテンツにより多くのお金を落とす土壌が整っている。オリジナルの券面やライブ写真を電子チケットでの入場者限定で配布する事例もあり、コアなファンが集まりやすいのが電子チケット市場だった。
紙チケットに比べると使う障壁は高いが、SNSとの相性がよい。この特徴を持つ電子チケットを、より多くのエンタメファンに拡大するためにどんな施策があり得るだろうか。キーワードになりそうなのは「チケットそのもののエンタメ化とストレスフリー化」である。
ライブ体験そのものをプロデュースする
電子チケットのプラットフォーム「MOALA」を展開しているplayground(東京都渋谷区)に、独自の電子チケットシステムを取材した。同社は2014年の創業で、取材に応じた同社執行役員の河野貴裕氏は、サービスが目指すのは「来場体験・観戦体験の向上」だという。
「イベントやアーティストを見つけた時から、ライブ体験は始まっています。そのライブ・イベントに興味を持ってチケットを購入し、実際にライブを楽しんだらその感想を、友達同士やSNSで共有するまでが一つの包括的なライブ体験のプロセスなのです。その体験全体をプロデュースし、デジタルコンテンツの力でよりエンタメ性に富んだものにしていくのが私たちの仕事です」
と河野氏は語る。
「スポーツやエンタメに誘われれば行くけど自分では行かないかな、という人に足を運んでもらって、グッズやデジタルコンテンツを購入して楽しんでもらえるか、を業界の皆さんは重視しています」
と続けたように、ライトファンの取り込みを電子チケット業界は重視している。そのために同社は電子チケットサービス「QuickTicket」やプラットフォームの「MOALA」を展開してきた。これらを活かし、プロスポーツクラブ・テーマパーク・芸能事務所などと組み、ケース・バイ・ケースでファンがライブ体験をより楽しめる電子チケットを実現させてきた。
電子チケット向けに写真の配信も
アプリのダウンロードや事前登録、顔認証などの操作はライト層には煩雑でハードルが高いと映り、興行へのハードルを高くしてしまう。そこでplayground社のQuickTicketは、専用のアプリは無く、購入したチケットとSNSのアカウントを紐付ける仕組みとした。SNSアカウントと紐づいたことで第三者への転売も難しくしている。
またMOALAでは、観客同士でコミュニケーションをするためのチャットツールや来場ポイント・クーポンの付加も可能である。スタンプをアーティストのサインや手形にして特別感を出すことも可能で、データを把握してコンテンツ展開に活かせるという主催者側のメリットもあるそうだ。
例えば埼玉西武ライオンズはこのMOALAによる電子チケット化で、電子チケット購入者にその試合の特別な写真を送る「ビクトリーフォト」という特典を付けてきた。スポーツイベントならば試合の思い出が蘇るリアルな写真、アイドル系ならば可愛いアイドルのサインやイラストなど、ファンが喜ぶ特典を付けられる。
「インスタグラムなど、SNSの使い方には慣れている」(河野氏)というライト層を、気軽に共有したくなるデジタルコンテンツで取り込むことで、さらに電子チケットをメジャーにしていく動きが続いている。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)