アサヒグループホールディングス(GHD)が、オーストラリアのビール最大手「カールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)」を160億豪ドル(約1兆2000億円)で買収する。
アサヒの企業買収としては過去最大で、国内酒造大手ではサントリーHDによる米蒸留酒大手「ビーム(現ビームサントリー)」買収(約1兆6500億円)に次ぐ大型案件。国内ビール市場が高齢化や若者のビール離れで縮小する中、海外事業の拡大で収益基盤を強化する狙いだ。
背景には売り主の「懐事情」
カールトンの親会社であるビール世界最大手の「アンハイザー・ブッシュ(AB)インベブ」(ベルギー)と合意した。2020年3月末までに手続きを完了する予定。CUBは、「カールトン」などのブランドで知られ、豪州のビール市場で5割弱のシェアを握る。アサヒは高級ビールを軸とした海外展開の一環として、2019年2月に豪州でスーパードライの自社工場生産をスタートさせたばかり。今回、中価格帯ビールを中心に販売力のあるCUBを傘下に収めることで、スーパードライブランドを豪州で浸透させたい考えだ。
アサヒGHDは2016年10月にABインベブから西欧のビール事業を2945億円で、2017年3月には同社の東欧のビール事業を8883億円で買収。2019年4月末には英国でパブやホテルを運営する「フラー・スミス&ターナー」の高級ビール事業を約370億円で買収するなど、高級ビールを中心に世界展開を加速している。
このアサヒGHDの積極的なM&Aは、主にABインベブから買い取っていることでもわかるように、先方の「売りたい事情」に負うところが大きい。ABインベブは2004年にベルギーとブラジルの大手が合併して「インベブ」となり、「バドワイザー」で知られる米「アンハイザー・ブッシュ(AB)」を2008年に買収して現社名になった。そして、2016年に英SABミラーを買収するなど、大型M&Aで世界一に登りつめたが、その分、10兆円を上回る負債を抱えた。収益がもう一つ順調に伸びなかったことから、資産の一部を切り離す道を選んだ。
ABインベブは今夏にアジア事業を香港市場に上場させ、最大1兆円程度の調達を目指していたが、市場環境の悪化などを理由に見送っており、これが今回の豪州事業売却につながったとみられている。アサヒGHDには有難い巡り合わせというところ。
国内での低迷が続く中、海外に活路求める企業たち
さて、日本企業による近年の海外企業買収では、武田薬品工業による欧州医薬品大手「シャイアー」(約6.2兆円)や、ソフトバンクグループによる英半導体設計大手「ARMホールディングス」(約3.3兆円)などがあり、今回の買収はこれらに続く規模になる。
これだけの買収の原資はどうか。アサヒGHDは今回、新株発行などで2000億円程度を調達するほか、一部を資本とみなされるハイブリッド債も2000億円程度発行、残りの資金は銀行借り入れや社債で賄う方針だ。これにより、株数はおよそ8%増える計算で、市場では、株式の希薄化への懸念が出て、買収発表(7月19日)後、最初の取引となった週明け22日のアサヒGHDの株価は一時、前週末比449円(9%)安の4589円と、2カ月ぶりの安値をつけた。発表前の16日の年初来高値5115円からは10.3%安く、その後も4600~4700円台で推移している。
一方で市場にも、収益への貢献への期待はある。アサヒGHDの2018年12月期の売上高2兆1200億円のうち海外事業が約3割を占め、営業利益の5割弱を海外事業で稼いでおり、今回の買収で、さらに収益を押し上げると見込んでいる。
ビールの国内市場は少子高齢化などに伴って低迷し、大手のビール類の課税出荷数量は2018年まで14年連続で前年割れ。しかも、利幅が少ない第3のビールが4割を占めて利益をあげにくい構造が定着する中、海外に活路を求めるのは当然のことだ。
ただ、海外事業は明暗が分かれている。サントリーHDのビーム買収ではウイスキーの販路を世界に広げるのに貢献し、業績を拡大した。一方、キリンHDが2011年に約3000億円で買収したブラジル事業は、景気減速や他社との競争激化で業績不振に陥り、1100億円の損失を計上して売却を余儀なくされた。
アサヒGHDが豪州で十分な収益を上げられなければ、重い負債を抱え続けることになる。巨額買収は果たして吉と出るか、凶と出るか。