原子力規制委員会が打ち出した、耐震対策の強化を求める方針。規制委が設置した検討チームが、「基準地震動」(想定される最大の地震の揺れ)の計算方法の見直し案を打ち出し、近く、規制委が正式に決める。
原発によっては追加の対策を迫られ、稼働中の原発は対策が終わらずに運転停止に追い込まれたり、再稼動の審査中の原発は再稼働が遅れたりするなどの可能性がある。稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県)、玄海原発(佐賀県)などが対象になりそうだ。
より多くのデータで備えを強化
東京電力福島第1原発の事故を受け、2013年7月8日、安全対策を巡り世界で最も厳しいとされる基準(新規制基準)が導入された。その後、規制委は安全審査の過程で地震の揺れや津波の高さ、火山の爆発によって降る火山灰の厚さの想定を引き上げるよう求めたほか、テロリストによる航空機の衝突などに備え、遠隔操作で原子炉を冷やす設備の設置などテロ対策施設の対策も追加された。
今回、さらに新たに加わるのが地震対策の強化だ。自然災害の想定にかかわり、新たな科学的論文を受けて、前記の津波や火山灰の想定数値を上積みすることはあったが、規制自体を見直すのは、2013年の新規制基準後で初めてになる。
では、「基準地震動の計算方法の見直し」とは、具体的にはどのようなことか。キーワードは「未知の活断層」、つまり震源を特定できない地震。これまで規制委は、未知の活断層による地震は2004年の北海道留萌地方で起きたマグニチュード(M)6.1の地震データで、全国一律に評価していた。今回、規制委が2000~2017年に起きた89の地震の観測記録を分析して新たに作った揺れのパターンを、それぞれの原発に当てはめ、耐震性を評価するように改めることにした。より多くの地震データを使うことで、備えを強化するのが目的だ。
電力各社は地盤の状況なども加味し、基準地震動を計算し直すことになる。その結果、耐震性が足りないと評価されれば、対策工事が必要になる。
「対策工事完了までの時間は6、7年を超える可能性もある」
今回の新方針でも、「南海トラフ」など海溝型地震や、明らかになっている活断層による揺れの方が大きいと想定されている原発は、ほとんど関係ないはずだ。一方、最も影響を受けそうなのが川内、玄海の両原発で、周辺に確認されている目立った活断層がなく、未知の活断層の想定が、耐震性を考える際の最大の揺れになっている。新しい基準では、この「最大の揺れ」がより大きくなり、新たな対応が必要になるとの見方が出ているのだ。必要な対策を導き出すため、影響の評価にも時間が必要で、九電は「対策工事完了までの時間は6、7年を超える可能性もある」としている。
再稼働に向けた審査中の原発でも、例えば東北電力の女川原発2号機、中国電力の島根原発2号機は耐震性評価が概ね終わっているので、再評価が必要になれば、審査が一段と長期化し、再稼働がさらに遅れかねない。2021年の完成を目指して審査が大詰めを迎えている日本原燃の使用済み核燃料の再処理工場(青森県)も影響を受けるかもしれない。
通常の建物などは建築基準法で「既存不適格」といって、例えば耐震性など新しい基準、厳しい基準ができても、従来の建てた時点の基準に合致していれば、使い続けることができる。これが原発のように安全が絶対的に求められる場合、既存不適格というわけにはいかない。そこで、最新の知見をもとに規制が見直された場合、既存の原発にも対策を義務づける「バックフィット制度」が福島第1の事故以後、導入された。今回の耐震対策の強化は、同制度に基づくものだ。
焦点となるのは「猶予」
ただ、新たな規制への対応を終えるまで、どれだけ時間的猶予を認めるかも、大きな焦点になる。規制委は、対策が終わるまで運転停止を命じることもできるが、影響の大小や追加工事の時間などをもとに猶予期間を設けるか否か、判断することになる。
テロ対策の場合、初めての施設ということで想定以上に審査に時間がかかり、原子力規制委は2018年7月としていた期限の延期を認めたが、その原発ごとの期限が2020年春以降、順次訪れる。間に合わない原発が続出する見込みで、電力会社はさらに猶予期間を延ばすよう求めたが、規制委は却下した。
今回の耐震対策の強化も、猶予を認めるか、認めるならどの程度の期間になるか、規制委の判断が注目される。